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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ
「紗耶さん…!」
藤木が駆け寄り、紗耶の肩を抱いた。

「…本当なのですか…?今のお話…。
わ、私…何がなんだか…分からないの…。
せ、先生の息子さんが仰ること…何も…何ひとつ…理解できないの…」
掠れる声で、問うのが精一杯だ。

藤木の手が、強ばりながら離れる。
「…紗耶さん…」

まるで、自分が大きな傷を負ったかのような痛みを滲ませた男の端正な貌を見上げる。
「…先生と…お母様は…昔恋人同士だったの…?」
冗談や嘘にしてはタチが悪すぎる。
けれど、信じられない。

「…本当なの?先生…?」

藤木の表情を一瞬たりとも見逃すまいと、見つめ続ける。

…暫く瞼を閉じていた藤木が、ややあって絞り出すように発した声は、別人のように冷淡なものだった。
「ああ、そうだ。
本当だよ」
男はゆっくり立ち上がり、紗耶に背を向ける。
「紫音が言ったことは、すべて事実だ」
聴こえた声は、驚くほど無機質だった。

「…⁈…」
「…僕は君のお母様と恋人だった。
僕が高校教師をしていた時に君のお母様と付き合っていた。
そして、学校で大問題になって別れた。
…僕はそれから別の女性…紫音の母親と結婚しアメリカに渡った」
そのまま、窓辺に近づく。
…まるで紗耶を拒み、永遠に歩み去るかのように…。

「…うそだわ…」
「妻と離婚が成立し、帰国した。
そうして君のお母様とまたよりを戻したくて、君に近づいた。
まだ未練たらたらだったからね。
…そう。君を利用しようと思ったんだ。
息子の言う通りだよ。
君を懐柔したら、紫織となんとかなるんじゃないかと思ってね。
…けれど、ご主人と上手くいって…妊娠までしているとは誤算だったよ。
女は薄情だね。逞しい。まいったよ」
自嘲するような男の冷笑が、低く紗耶の鼓膜を打つ。

傍らの紫音が形の良い唇を歪める。
けれど、それは決して愉快そうな表情ではなかった。

「嘘だわ!嘘よ…!
そんな…!」
紗耶は震える脚で立ち上がり、すべてを拒むかのように冷たい男の背中に叫んだ。

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