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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ
紗耶は震える脚で部屋から走り去った。
悪夢のような出来事…。
…夢ならいい…夢なら早く醒めてほしい…。
藤木が母、紫織と恋人同士だった。
それだけでも衝撃なのに…。
何より紗耶の心を打ち砕いたのは、藤木が紫織をまだ愛していて、寄りを戻すために自分に近づいたという事実だった。
…さっき、好きだと言われたのに…。
夢のように幸せな告白をしてくれた男は、その同じ唇で冷酷非情に紗耶を突き放した。
『君なんか愛しちゃいないよ』
『二度とここへは来るな』
とりつく島もない、冷たい言葉と表情だった。
…先生…先生は…私を…!
息を切らして螺旋階段を駆け降り、玄関を出たところで脚がもつれ、転んだ。
「…っ…!」
そのまま、立ち上がる気力もなく、蹲る。
…痛い…
…やっぱり…夢じゃなかった…。
涙が、白い手の甲にぽつりと落ちた。
「…紗耶?どうした?お前…」
聞き覚えのある声…。
恐る恐る貌を上げる。
「…隼人先輩…」
ギターケースを背負った隼人が、怪訝そうな貌で紗耶を覗き込んでいた。
「どうした?サークルに来ないから、まだバイト中か…て見に来…」
と、いいかけて紗耶の様子が只事ではないことに気づき、険しい表情でしゃがみ込む。
隼人の雄々しい眉が心配そうに寄せられる。
「紗耶?なんで泣いてんだ⁈何があった⁈
…あいつか⁈藤木になんかされたか⁈」
紗耶は泣きながら首を振る。
「…ちが…う…」
安堵感と哀しみが洪水のように一気に押し寄せる。
子どものように号泣しながら、隼人にしがみついた。
「…ちが…うの…ちがうけど…」
言葉にならず、隼人の胸で泣きじゃくる。
戸惑いながらも、隼人は紗耶の肩をこわごわ抱きしめる。
「…泣くな…紗耶…」
「…隼人…先輩…」
「あ〜らら?
どしたの?
…もしかして、あたし、オジャマ?」
アネゴののんびりした声が背中に響く。
「馬鹿。何言ってんだ。お前も手伝え。
紗耶が転んで立てないんだ」
隼人が腹立たしげに叫び、アネゴが明るく敬礼した。
「りょーかい!
…やれやれ、恋の傷はなかなかやっかいだからねえ。
すぐ塞がるといいけどお〜」
「うるせえな。早く手、貸せ」
アネゴが紗耶の身体を支える。
「じゃ、サーヤちゃん。…行こうか」
…その声と眼差しは、とても温かった…。
悪夢のような出来事…。
…夢ならいい…夢なら早く醒めてほしい…。
藤木が母、紫織と恋人同士だった。
それだけでも衝撃なのに…。
何より紗耶の心を打ち砕いたのは、藤木が紫織をまだ愛していて、寄りを戻すために自分に近づいたという事実だった。
…さっき、好きだと言われたのに…。
夢のように幸せな告白をしてくれた男は、その同じ唇で冷酷非情に紗耶を突き放した。
『君なんか愛しちゃいないよ』
『二度とここへは来るな』
とりつく島もない、冷たい言葉と表情だった。
…先生…先生は…私を…!
息を切らして螺旋階段を駆け降り、玄関を出たところで脚がもつれ、転んだ。
「…っ…!」
そのまま、立ち上がる気力もなく、蹲る。
…痛い…
…やっぱり…夢じゃなかった…。
涙が、白い手の甲にぽつりと落ちた。
「…紗耶?どうした?お前…」
聞き覚えのある声…。
恐る恐る貌を上げる。
「…隼人先輩…」
ギターケースを背負った隼人が、怪訝そうな貌で紗耶を覗き込んでいた。
「どうした?サークルに来ないから、まだバイト中か…て見に来…」
と、いいかけて紗耶の様子が只事ではないことに気づき、険しい表情でしゃがみ込む。
隼人の雄々しい眉が心配そうに寄せられる。
「紗耶?なんで泣いてんだ⁈何があった⁈
…あいつか⁈藤木になんかされたか⁈」
紗耶は泣きながら首を振る。
「…ちが…う…」
安堵感と哀しみが洪水のように一気に押し寄せる。
子どものように号泣しながら、隼人にしがみついた。
「…ちが…うの…ちがうけど…」
言葉にならず、隼人の胸で泣きじゃくる。
戸惑いながらも、隼人は紗耶の肩をこわごわ抱きしめる。
「…泣くな…紗耶…」
「…隼人…先輩…」
「あ〜らら?
どしたの?
…もしかして、あたし、オジャマ?」
アネゴののんびりした声が背中に響く。
「馬鹿。何言ってんだ。お前も手伝え。
紗耶が転んで立てないんだ」
隼人が腹立たしげに叫び、アネゴが明るく敬礼した。
「りょーかい!
…やれやれ、恋の傷はなかなかやっかいだからねえ。
すぐ塞がるといいけどお〜」
「うるせえな。早く手、貸せ」
アネゴが紗耶の身体を支える。
「じゃ、サーヤちゃん。…行こうか」
…その声と眼差しは、とても温かった…。