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異邦人の庭 〜secret garden〜
第3章 コンテ・ド・シャンボールの想い人
紗耶は驚きの余り息を呑んだ。
咄嗟に左隣に座る紫織を見上げた。

紫織はその白百合の化身のように美しい横貌を微動だにさせず、何の感情も読み取れない人形のような佇まいのまま、真っ直ぐ前を向いていた。

…千晴お兄ちゃまがお嫁様を選ばれる…?
この…中から?

全く寝耳に水の話であった。
けれど、集まった親族たち…ことに娘たちは予め聴かされていたようで、紗耶のように驚いているものはいなかった。
寧ろ高揚したような表情で、皆、食い入るように千晴を見つめているのだ。

「…やはりそうだったのね、お姉様」
華子の隣に座って囁くのは、妹の麗香だ。
縹色の総絞りの振袖を着た麗香は華子に良く似た派手な貌立ちの美人である。
紗耶より二つ年上で、四谷にある有名私大に通っている。

「お姉様の気合いの入れ方、ハンパないもの。
そのお着物、母様に散々おねだりして買っていただいたものね。
…千晴お兄様のためだったのね」

華子はふふ…と紅い唇を少し歪めて笑った。
「当たり前じゃない。
ここ一番にパッとしないお着物なんか着ていられないわ」
「…でもお姉様、千晴お兄様とご結婚なさりたかったの?
ドバイの大富豪がいいってアラブのエアラインに就職を決められたのに…。
千晴お兄様、たしかにものすごくイケメンだしオーラがあるしドキドキするくらい魅力的だけど…お姉様に合うかしら?
こんな古めかしいお家に嫁がれたら、窮屈じゃない?
…何より厳しい大お祖母様もいらっしゃるし…」
「貴方は子どもね。何も分かってないわ」
華子はつんと顎を上げた。

「今時、お金持ちなんて腐るほどいるわ。
…だけど由緒正しいお家や歴史はお金では買えない。
これからステータスになるものは家柄や歴史よ。
…ここにはそれがあるわ」

…それに…と、大きな一枚硝子が張り巡らされた窓の外の景色を華子は見遣る。
「…都心でこの歴史的建造物の屋敷にこの広大な庭園…。
今時、あり得ない贅沢だわ
…他にも本家は丸の内や銀座、虎ノ門にいくつも不動産をお持ちだし…ね」
最後の笑み混じりの呟きに麗香は鼻を鳴らした。

「なあんだ。結局はお金じゃないの。
現金なお姉様」

紗耶は姉妹のあからさまな話に身を硬くしながら、上座の千晴を伺った。

…千晴は、九谷焼の花器に活けられた一輪のコンテ・ド・シャンボールの花に、その美しい手を伸ばしていた。







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