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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ
「…紗耶ちゃん…!
いらっしゃい!
どうしたの?急に…。
言ってくれたら、お迎えしたのに…!」
奥沢の家のラボで、ハーブの精製をしていたらしい紫織は紗耶の不意の帰宅に驚きながらも、嬉しそうに両手を広げた。

「…ただいま。…お母様…」
「お帰りなさい。紗耶ちゃん」
紫織が愛おしげに紗耶を抱きしめる。

…お母様のアロマ…懐かしいカモミールローマンだ。

いつも紫織の跡を追いかけ、抱っこされていたことが多かった紗耶は幼い頃をふと思い出す。
カモミールローマンの薫りは、紗耶にとって紫織の母性の象徴であった。

…誰よりも美しく優しいお母様…。
…大好きな大好きなお母様…。
その思いは今も変わらない…。

…変わらないけれど…。

「会いに来てくれて嬉しいわ。紗耶ちゃん」
紫織の優しいキスを頰に受けながら、そっと尋ねる。
「お母様、ご体調は大丈夫?」
少し遠慮勝ちに母の腹部を見下ろす。
スモーキーピンクのゆったりとしたニットのワンピースに包まれた紫織の腹部は、明らかな妊娠を表すかのようにふっくらと隆起していた。

紫織が自分のお腹を愛おしげに撫でる。
「大丈夫よ。
悪阻も終わって、すっかり安定期に入ったし…。
ご飯が美味しくて少し太ってしまったくらい…」

そういえば、紫織の白い貌はわずかにふっくらとしていて驚くほどに若返ってみえる。

「…でもお父様は、ふっくらした紫織は可愛いよ…て。
もっと食べなさいって仰るの」
臆面もなく惚気てみせる紫織に、紗耶は思わず吹き出した。
「…ご馳走さま…」
「あら…。私、自慢しちゃったかしら?」
二人は貌を見合わせて笑った。

紫織が紗耶の手を取り、朗らかに誘った。

「さあ、お茶にしましょう。
ちょうどよかったわ。今朝、タルトタタンを焼いたの。
紗耶ちゃん、好きでしょう?
テルさんにはもう会った?きっと喜ぶわ。
紗耶ちゃんの婚約式のお話も聞きたいし…。
もう来週なのよね?お支度は進んでいるの?
…なんだか私までどきどきしてきたわ」

紫織の無邪気な問いかけに、紗耶は小さく笑って頷いたのだ。

「…ええ、順調よ。お母様…」




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