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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ

「なあに?紗耶ちゃん?」
紫織が不思議そうに長く美しい睫毛を瞬きした時…。
「紗耶!来ていたのか!」
嬉しそうな声とともにリビングの扉が勢いよく開き、政彦が現れた。
「お父様!」
「政彦さん!」
二人は異口同音に叫び、テーブルから立ち上がる。
「お帰りはあさってだと伺っていたわ!」
政彦が紫織に歩み寄り、早くも愛の眼差しで抱き寄せる。
「モルガン銀行の役員会食の予定がひとつキャンセルになったのでね。
あとの現地視察は若手に任せてきた。
何ごとも経験だからね。
それで、便を変更して帰国したんだよ。
紫織に早く会いたくてね…」
そう言いながら、政彦は紫織の美しいその額にキスをした。
…紗耶がいなかったらきっと口唇に正式に…だったろう。
そんな予想ができるような熱っぽいキスだった。
「嬉しいわ。貴方、おかえりなさい」
紫織が嬉しそうに政彦に抱きつく。
「体調は?大丈夫?無理してない?
…相変わらず綺麗だね…紫織…」
「大丈夫よ。
貴方がいらっしゃらなくて寂しかったわ…」
…お母様はどんどんお父様を好きになるみたい…。
紗耶の胸がふんわりと温かくなる。
「紗耶…!
会いたかったよ…!」
政彦が紗耶に両手を広げる。
「…お父様…!おかえりなさい!」
昔のように、あやすように背中を柔らかく叩く。
…父の声と逞しい胸は相変わらず優しくて穏やかだ。
「紗耶…。
…少し見ない間に大人びて綺麗になったね…。
…来週は婚約式だね…」
少し寂しげな眼差しが紗耶を見つめる。
「…ええ…」
「…紗耶は幸せ?」
どきりとしたが、すぐに頷く。
「もちろんよ」
政彦が寂しそうにしながらもほっとしたように微笑んだ。
「…それなら良かった…。
千晴は立派な非の打ち所がない青年だ…。
お前はきっと幸せになれる…」
…悔しいけれどね…。
と、苦笑する。
「…お父様…」
「今夜は夕食を食べてゆきなさい。
紗耶とゆっくり話せる機会はそうはない」
抱きしめた紗耶を離さないまま、政彦が言った。
「…はい。お父様」
「テルさんとメニューの相談をしてくるわ。
紗耶ちゃんと政彦さんのお好きなメニューにしなくちゃね」
紫織がキッチンへの扉を開け、ふと思い出したように紗耶を振り返る。
「あ、紗耶ちゃん。さっき何か言いかけていたけれど?」
紗耶は直ぐに首を振り、笑った。
「なんでもないの。…もういいの。お母様」
紫織が不思議そうに長く美しい睫毛を瞬きした時…。
「紗耶!来ていたのか!」
嬉しそうな声とともにリビングの扉が勢いよく開き、政彦が現れた。
「お父様!」
「政彦さん!」
二人は異口同音に叫び、テーブルから立ち上がる。
「お帰りはあさってだと伺っていたわ!」
政彦が紫織に歩み寄り、早くも愛の眼差しで抱き寄せる。
「モルガン銀行の役員会食の予定がひとつキャンセルになったのでね。
あとの現地視察は若手に任せてきた。
何ごとも経験だからね。
それで、便を変更して帰国したんだよ。
紫織に早く会いたくてね…」
そう言いながら、政彦は紫織の美しいその額にキスをした。
…紗耶がいなかったらきっと口唇に正式に…だったろう。
そんな予想ができるような熱っぽいキスだった。
「嬉しいわ。貴方、おかえりなさい」
紫織が嬉しそうに政彦に抱きつく。
「体調は?大丈夫?無理してない?
…相変わらず綺麗だね…紫織…」
「大丈夫よ。
貴方がいらっしゃらなくて寂しかったわ…」
…お母様はどんどんお父様を好きになるみたい…。
紗耶の胸がふんわりと温かくなる。
「紗耶…!
会いたかったよ…!」
政彦が紗耶に両手を広げる。
「…お父様…!おかえりなさい!」
昔のように、あやすように背中を柔らかく叩く。
…父の声と逞しい胸は相変わらず優しくて穏やかだ。
「紗耶…。
…少し見ない間に大人びて綺麗になったね…。
…来週は婚約式だね…」
少し寂しげな眼差しが紗耶を見つめる。
「…ええ…」
「…紗耶は幸せ?」
どきりとしたが、すぐに頷く。
「もちろんよ」
政彦が寂しそうにしながらもほっとしたように微笑んだ。
「…それなら良かった…。
千晴は立派な非の打ち所がない青年だ…。
お前はきっと幸せになれる…」
…悔しいけれどね…。
と、苦笑する。
「…お父様…」
「今夜は夕食を食べてゆきなさい。
紗耶とゆっくり話せる機会はそうはない」
抱きしめた紗耶を離さないまま、政彦が言った。
「…はい。お父様」
「テルさんとメニューの相談をしてくるわ。
紗耶ちゃんと政彦さんのお好きなメニューにしなくちゃね」
紫織がキッチンへの扉を開け、ふと思い出したように紗耶を振り返る。
「あ、紗耶ちゃん。さっき何か言いかけていたけれど?」
紗耶は直ぐに首を振り、笑った。
「なんでもないの。…もういいの。お母様」

