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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ

「…さあ、紗耶様。お支度が整いました。
…鏡をご覧なさいませ」
徳子の侍女、七重に声をかけられ、紗耶はそっと瞳を上げる。
東翼の支度部屋には徳子の輿入れ道具だというヴィクトリア朝の意匠の大きな姿見が持ち込まれていた。
その鏡に自分の姿が映るのを、紗耶はぼんやりと見つめていた。
七重の妹、八重により薄化粧が施された貌は自分であって自分ではないようだ。
…ペールブルーに染められた極上のレースの裾の長いドレス…。
ノースリーブ袖にはふんわり白いチュールがかかっている。
クラシカルでロマンティックな美しくも可憐なデザインだ。
『高遠本家の花嫁になるものが婚約式に身に付けるドレスは、淡いブルーと決まっているのですよ。
我が高遠家の紋花、コンテ・ドゥ・シャンポールの薔薇のブーケと良く映えるように…ね』
徳子がそう言ってドレスを手渡してくれたのだ。
八重が丁寧に結い上げた髪は、所々に真珠の粒が埋め込まれていた。
透き通るように白く細い首筋に飾られたピンクパールの一連のネックレス…桜色の薄い耳朶にも真珠のイヤリング…。
七重は紗耶のほっそりとした白い手首に恭しく真珠のブレスレットを巻き付けながら語りかける。
「こちらの真珠の数々は大奥様がお輿入れされる際に身に付けてこられた逸品でございますよ。
真珠王・御木本幸吉翁が自ら選ばれ大奥様に献上されたアコヤ真珠です。
9ミリを超える美しい真珠は、私は未だに大奥様の真珠しか拝見したことはございません。
大変希少なアコヤ真珠と拝聴しております。
清楚な紗耶様に相応しい真珠かと存じます」
いつもはほぼその声を聞いたことがないほど寡黙な七重がこれほど饒舌に語ることは珍しい。
傍らの八重もうっとりしたように眼を細める。
「…本当に…。
紗耶様の楚々としたお可愛らしい雰囲気とお貌によくお似合いですわ」
普段は厳しく紗耶にも容赦なく礼儀作法を正してくる双子の侍女たちに優しく褒めそやされ、紗耶は二人が如何にこの婚約を心から喜んでくれているのかを感じ入る。
…けれど…。
「…私…本当に…この真珠に相応しいのかしら…」
心のつぶやきが口唇から溢れ落ちた。
…鏡をご覧なさいませ」
徳子の侍女、七重に声をかけられ、紗耶はそっと瞳を上げる。
東翼の支度部屋には徳子の輿入れ道具だというヴィクトリア朝の意匠の大きな姿見が持ち込まれていた。
その鏡に自分の姿が映るのを、紗耶はぼんやりと見つめていた。
七重の妹、八重により薄化粧が施された貌は自分であって自分ではないようだ。
…ペールブルーに染められた極上のレースの裾の長いドレス…。
ノースリーブ袖にはふんわり白いチュールがかかっている。
クラシカルでロマンティックな美しくも可憐なデザインだ。
『高遠本家の花嫁になるものが婚約式に身に付けるドレスは、淡いブルーと決まっているのですよ。
我が高遠家の紋花、コンテ・ドゥ・シャンポールの薔薇のブーケと良く映えるように…ね』
徳子がそう言ってドレスを手渡してくれたのだ。
八重が丁寧に結い上げた髪は、所々に真珠の粒が埋め込まれていた。
透き通るように白く細い首筋に飾られたピンクパールの一連のネックレス…桜色の薄い耳朶にも真珠のイヤリング…。
七重は紗耶のほっそりとした白い手首に恭しく真珠のブレスレットを巻き付けながら語りかける。
「こちらの真珠の数々は大奥様がお輿入れされる際に身に付けてこられた逸品でございますよ。
真珠王・御木本幸吉翁が自ら選ばれ大奥様に献上されたアコヤ真珠です。
9ミリを超える美しい真珠は、私は未だに大奥様の真珠しか拝見したことはございません。
大変希少なアコヤ真珠と拝聴しております。
清楚な紗耶様に相応しい真珠かと存じます」
いつもはほぼその声を聞いたことがないほど寡黙な七重がこれほど饒舌に語ることは珍しい。
傍らの八重もうっとりしたように眼を細める。
「…本当に…。
紗耶様の楚々としたお可愛らしい雰囲気とお貌によくお似合いですわ」
普段は厳しく紗耶にも容赦なく礼儀作法を正してくる双子の侍女たちに優しく褒めそやされ、紗耶は二人が如何にこの婚約を心から喜んでくれているのかを感じ入る。
…けれど…。
「…私…本当に…この真珠に相応しいのかしら…」
心のつぶやきが口唇から溢れ落ちた。

