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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ
「…紗耶ちゃん…」
…聴き慣れた声が聞こえ、姿見の奥に千晴の姿を認めた。

紗耶は振り返る。
「…お兄ちゃま…」

極上のシルクウールの白のタキシードに身を包んだ千晴は、一枚の美しい西洋絵画のようだ。
長めの丈の上着がクラシカルで、宮廷貴族のような優雅な雰囲気を醸し出していた。

こつこつと靴音を鳴らしながら、千晴は紗耶に近づく。

「…式まで紗耶ちゃんの姿は見てはいけないと八重に止められたのだけれどね。
式の前に婚約者の貌を見ると、不吉なことが起こるらしい。
古い言い伝えさ。僕は気にしない。
だから、我慢出来ずに来てしまったよ。
コンテ・ドゥ・シャンポールの薔薇を紗耶ちゃんに飾りたかったし…」
優しい鳶色の瞳が笑いかけ、美しい薔薇色のコサージュを紗耶の髪に飾る。

「…お兄ちゃま…」
「…よく似合う。
それに…とても綺麗だ…。
…なんだか大人びて見えるね…。
いつもの紗耶ちゃんじゃないみたいだ…」
温かな大きな手が紗耶の頰を優しく撫でる。
「緊張しているの?貌が冷たい…」
「…ええ…。少し…」
紗耶は素直に頷いた。
「大丈夫だよ。親族の前で婚約を宣誓して、大お祖母様に承認をいただいて式は終わりだ。
もう皆んな、庭園に集まっている。お天気で良かったね。
…政彦義兄さんと紫織さんには会った?」

「…はい。先ほど挨拶に来てくれました」

…感極まったような政彦と紫織の表情を思い出す。
『婚約式でこれだからな…。
結婚式では僕の心臓はどうにかなってしまいそうだよ』
政彦の眼鏡の奥の瞳は潤んでいた。
『…紗耶ちゃん。すごく綺麗よ…。
…おめでとう…』
紫織は愛情込めた眼差しで、祝福の言葉を送った。
『初恋の千晴さんと正式に婚約できるのね…。
本当に、良かったわね。
紗耶ちゃん。お幸せにね…』

「…ええ…。お母様…」

…そう…。
少し前の紗耶なら、無邪気にこの日を迎えられたはずなのだ。
無邪気に婚約を喜び、幸せ一杯に、眼の前の男を見つめられたはずなのだ。

…けれど…。

「…紗耶ちゃんのサークルのお友だちも庭園にいらしていたよ。
あとで挨拶してくるといい」

…じゃあ、僕は先に教会に行っているからね…。

恭しく優しいキスを紗耶の額に落とすと、千晴は部屋を辞すために踵を返した。

…気がつくとその後ろ姿に、紗耶は叫んでいた。

「…待って…!千晴お兄ちゃま…!」
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