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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ
アネゴが屋敷の中に脚を踏み入れると、明らかに緊迫した空気が辺りを漂っていた。

メイドたちが深刻そうな貌で慌ただしげに足早に通り過ぎる。
「…紗耶様はいらした?」
「ううん。こちらにはいらしてはいないわ」
そんな言葉が密やかに交わされていた。

「…あの。失礼ですが…紗耶様の大学のお友達でいらっしゃいますよね?」
背後から硬質な声が掛かった。
振り返ると、そこには黒く裾の長い古典的なドレスの制服を身につけた老婆の家政婦が佇んでいた。
白髪を一筋も乱れずにきちんと結い上げ、つるりとした象牙色の貌は能面のようで無表情だ。
…けれどその貌には、微かに焦りの色に似たものがうっすらと刷かれていた。

…ホーンテッドマンションに出てきそうな怪しの館の家政婦…てとこだな…。
てか、こんな時代錯誤な家政婦って本当にいるんだな、この令和の世の中で…。
アネゴは感心する。

「はい。そうです」

「紗耶様をお見かけになりませんでしたか?」
声を潜めるようにして近づいてくるのは、辺りにいるかもしれない親族の招待客に聞かれないように…という配慮だろう。

アネゴは少し言い淀むような風情で、困ったように口を開いた。

「…あの…私…見ました…」
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