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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ

…そんなことは、分かっている。
ママは僕の親権を決して離そうとはしなかったし…離婚のことは両方が納得して決めたことだとも知っていた。
…知っていたけれど…。
紫音は荷造りを止めて、ため息を吐く。
…パパは、ママと僕のことをどう思っているのだろうか…。
紫音は、昔から不思議だった。
父親はいつも紫音にも母親にも優しく穏やかだった。
叱られた記憶もない。
忙しい研究者だったが、紫音がねだれば必ずそれに応えてくれた。
遊びでも、欲しいものでも、何でもだ。
母親との仲も良好だったと信じていた。
父親は自分よりさらに多忙な心臓外科医の母親のために家事をし、育児も買ってでていたからだ。
だから、紫音がハイスクールを卒業したのち、離婚が成立したと聞いて、耳を疑うほどに驚いた。
…と、同時に、心の何処で腑に落ちた自分もいたのだ。
彼の父親は大変優しく穏やかだったが、そこに熱い情愛が感じられなかったからだ。
冷たいわけではない。
ただ、彼には自分たちより他にもっと大切なひとが…愛するひとがいるのではないか…と。
そう勘繰ってしまうようなどこか他人行儀で近寄り難い雰囲気を、父親は常に纏っていたのだ。
「…紫音…。
パパを見て…」
声を掛けられ、ゆっくりと貌を上げる。
…美しい榛色の瞳と眼差しが合う。
「…パパはね、ママもお前も愛していたよ。
ママがパパのお母さん…紫音のグランマを助けてくれたことは知っているよね?」
「…うん…。
グランマの心臓移植の為に、ママは奔走したんでしょう?
…そうしないと、パパはママと結婚してくれなかったから…て寂しそうに笑ってたよ」
彼は口唇を苦くゆがめた。
「…きっかけは、そうだった…。
ママがグランマの命を救ってくれて、それが縁で結婚した。
…けれど、それがすべてじゃない。
ママが好きじゃなければ、パパだって結婚なんかしない。
…ママはとても魅力的なひとだったよ。
強くて賢くて…それから健気なひとだった。
…パパを全身全霊で愛してくれた。
可愛い紫音を産んでくれた。
お前が生まれた日は、人生で最高の日だった。
今もそう思っている」
紫音の瞳が潤み、グズグスと鼻を鳴らす。
「止めてよ、今更なんだよ。
泣かせようとすんなよ」
憎まれ口を聞く紫音の頭を、彼は柔らかく抱き寄せた。
「…愛しているよ、紫音。
お前は可愛い我が子だ」
ママは僕の親権を決して離そうとはしなかったし…離婚のことは両方が納得して決めたことだとも知っていた。
…知っていたけれど…。
紫音は荷造りを止めて、ため息を吐く。
…パパは、ママと僕のことをどう思っているのだろうか…。
紫音は、昔から不思議だった。
父親はいつも紫音にも母親にも優しく穏やかだった。
叱られた記憶もない。
忙しい研究者だったが、紫音がねだれば必ずそれに応えてくれた。
遊びでも、欲しいものでも、何でもだ。
母親との仲も良好だったと信じていた。
父親は自分よりさらに多忙な心臓外科医の母親のために家事をし、育児も買ってでていたからだ。
だから、紫音がハイスクールを卒業したのち、離婚が成立したと聞いて、耳を疑うほどに驚いた。
…と、同時に、心の何処で腑に落ちた自分もいたのだ。
彼の父親は大変優しく穏やかだったが、そこに熱い情愛が感じられなかったからだ。
冷たいわけではない。
ただ、彼には自分たちより他にもっと大切なひとが…愛するひとがいるのではないか…と。
そう勘繰ってしまうようなどこか他人行儀で近寄り難い雰囲気を、父親は常に纏っていたのだ。
「…紫音…。
パパを見て…」
声を掛けられ、ゆっくりと貌を上げる。
…美しい榛色の瞳と眼差しが合う。
「…パパはね、ママもお前も愛していたよ。
ママがパパのお母さん…紫音のグランマを助けてくれたことは知っているよね?」
「…うん…。
グランマの心臓移植の為に、ママは奔走したんでしょう?
…そうしないと、パパはママと結婚してくれなかったから…て寂しそうに笑ってたよ」
彼は口唇を苦くゆがめた。
「…きっかけは、そうだった…。
ママがグランマの命を救ってくれて、それが縁で結婚した。
…けれど、それがすべてじゃない。
ママが好きじゃなければ、パパだって結婚なんかしない。
…ママはとても魅力的なひとだったよ。
強くて賢くて…それから健気なひとだった。
…パパを全身全霊で愛してくれた。
可愛い紫音を産んでくれた。
お前が生まれた日は、人生で最高の日だった。
今もそう思っている」
紫音の瞳が潤み、グズグスと鼻を鳴らす。
「止めてよ、今更なんだよ。
泣かせようとすんなよ」
憎まれ口を聞く紫音の頭を、彼は柔らかく抱き寄せた。
「…愛しているよ、紫音。
お前は可愛い我が子だ」

