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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ

「…パパ…」
幼い頃、よく甘えて父の胸で泣いたあの甘酸っぱい感情が込み上げてくる。
父はいつも優しく温かい大きな手をしていた。
…そして、いつも良い薫りがした…。
「お前が一番良い道を選んでくれたらいいと思っているよ。
日本でもいいし、またニューヨークに戻ってもいい。
お前がしたいようにしなさい。生きたいように生きなさい」
「…パパ…」
…パパにはそれができなかったのだろうか…。
ふとそんな疑問が過ぎった。
…深い深い森に咲く百合とひんやり湿ったモッシーな薫りの胸からわざとぞんざいに貌を上げる。
…俺も、いい加減ファザコンから立ち直らなきゃな…。
自嘲気味に少し笑い…
「…ママをひとりにはできないよ。
ああ見えてママはすごく寂しがり屋なんだ。
毎日ママから電話がかかってくる。
今、飲んでいるから紫音も付き合え、寝たら許さないてさ…。
全く。医者が未成年に酒を勧めてどうするんだよなあ」
眼が合い、ふたりは同時に吹き出した。
「…ママらしいな…」
しみじみした声は、情愛に満ちていた。
その声で、紫音は吹っ切れたような落ち着いた気持ちになる。
「だから、俺はニューヨークに帰るよ。
…チマチマした日本はやっぱり俺の性に合わないし、ハイスクールの友だちや、NBAやタコベルも恋しいしね。
…それに…ママが二日酔いでオペ室に入らないよう監視しなきゃね」
父の美しい瞳が紫音をじっと見つめた。
「…ありがとう、紫音…」
「別に。礼を言われることじゃないよ。俺のしたいことをするだけ」
ふんとそっぽを向き…それから、真摯な眼差しで父を見上げた。
「…パパ…」
「うん?」
「パパは…あの娘が好きなんでしょ…?」
父の榛色の瞳が驚いたように見開かれた。
「…分かるよ。息子だもん」
小さく笑う。
…パパが好きだから、パパの言動や表情で何を考えているか、手にとるように分かるのだ…。
俺のファザコンは伊達じゃない。
紫音は心の中で嘯く。
…酷く冷たい言葉で、紗耶を追い返したパパ…。
あんな父は初めて見た。
父は決して他人を邪険に扱ったりしない。
明らかに不自然だった。作為的だった。
突き放そうとすればするほど、彼女への愛の深さが露呈したかのように見えたのだ。
「…あの娘が…紗耶さんが、好きなんでしょう?
紫織さんじゃなくて、紗耶さんが…」
幼い頃、よく甘えて父の胸で泣いたあの甘酸っぱい感情が込み上げてくる。
父はいつも優しく温かい大きな手をしていた。
…そして、いつも良い薫りがした…。
「お前が一番良い道を選んでくれたらいいと思っているよ。
日本でもいいし、またニューヨークに戻ってもいい。
お前がしたいようにしなさい。生きたいように生きなさい」
「…パパ…」
…パパにはそれができなかったのだろうか…。
ふとそんな疑問が過ぎった。
…深い深い森に咲く百合とひんやり湿ったモッシーな薫りの胸からわざとぞんざいに貌を上げる。
…俺も、いい加減ファザコンから立ち直らなきゃな…。
自嘲気味に少し笑い…
「…ママをひとりにはできないよ。
ああ見えてママはすごく寂しがり屋なんだ。
毎日ママから電話がかかってくる。
今、飲んでいるから紫音も付き合え、寝たら許さないてさ…。
全く。医者が未成年に酒を勧めてどうするんだよなあ」
眼が合い、ふたりは同時に吹き出した。
「…ママらしいな…」
しみじみした声は、情愛に満ちていた。
その声で、紫音は吹っ切れたような落ち着いた気持ちになる。
「だから、俺はニューヨークに帰るよ。
…チマチマした日本はやっぱり俺の性に合わないし、ハイスクールの友だちや、NBAやタコベルも恋しいしね。
…それに…ママが二日酔いでオペ室に入らないよう監視しなきゃね」
父の美しい瞳が紫音をじっと見つめた。
「…ありがとう、紫音…」
「別に。礼を言われることじゃないよ。俺のしたいことをするだけ」
ふんとそっぽを向き…それから、真摯な眼差しで父を見上げた。
「…パパ…」
「うん?」
「パパは…あの娘が好きなんでしょ…?」
父の榛色の瞳が驚いたように見開かれた。
「…分かるよ。息子だもん」
小さく笑う。
…パパが好きだから、パパの言動や表情で何を考えているか、手にとるように分かるのだ…。
俺のファザコンは伊達じゃない。
紫音は心の中で嘯く。
…酷く冷たい言葉で、紗耶を追い返したパパ…。
あんな父は初めて見た。
父は決して他人を邪険に扱ったりしない。
明らかに不自然だった。作為的だった。
突き放そうとすればするほど、彼女への愛の深さが露呈したかのように見えたのだ。
「…あの娘が…紗耶さんが、好きなんでしょう?
紫織さんじゃなくて、紗耶さんが…」

