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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ

「先生!先生!いるんでしょう⁈
紗耶です!ここを開けてください!」
…こんな大声を上げたことは、生まれて初めてだ。
傍らで隼人がおろおろと紗耶を見ている。
「お、おい…紗耶!」
辺りをきょろきょろ見回し
「ここ、マンションだから。
他に住んでるひと、いるから」
小声で諭した。
構わず紗耶は玄関の扉を叩き続ける。
「開けて!先生!先生!」
…扉が静かに開かれた。
「先生…!」
玄関に転がり込むように駆け込む。
「やっぱり、あんただね」
扉を開けてくれたのは、紫音だった。
…彼はなぜか微かに嬉しそうに微笑った。
「はいどうぞ。
…あんたの王子様はリビングにいるよ」
…ちっとばかり鼕が立った王子様だけどね…。
「ありがとうございます!」
可笑しげな笑いを背中に、紗耶は廊下を突き進む。
広いリビングで、茫然としたように立ち竦むのは、藤木だ。
彼は紗耶の姿を見て、驚きに息を呑んだ。
「…紗耶さん…。その格好は…」
紗耶は自分の姿を見下ろす。
…極上のペールブルーの総レースのドレスは膝下で引き千切られ、白い脚が露わだ。
綺麗に結い上げられた髪はくしゃくしゃだし、きっと貌も酷いだろう。
けれど、そんなことはどうでも良かった。
…藤木に会うこと以外は、どうでも良かったのだ。
「先生…。
私、婚約式から…お兄ちゃまから逃げ出してきました」
「紗耶さん!なんてことを…!」
藤木の端正な眉が愕然としたように歪む。
「…私、お兄ちゃまとは結婚しません。
だって…先生が好きだから…先生を愛しているから…!
だからここに来ました。
私、自分の耳で先生の言葉を確認するまでは、ここを動きません」
男の美しい榛色の瞳が、切なげに細められた。
…この美しい瞳に、私が映っているのだわ…。
うっとりするような幸福感が、紗耶を押し包む。
…そう、こんな時ですら、このひとは私を酔わせるのだ…。
紗耶は藤木の瞳を、瞬きもせず見つめる。
そうして、震える口唇を開く。
「…先生は、私を好き?」
紗耶です!ここを開けてください!」
…こんな大声を上げたことは、生まれて初めてだ。
傍らで隼人がおろおろと紗耶を見ている。
「お、おい…紗耶!」
辺りをきょろきょろ見回し
「ここ、マンションだから。
他に住んでるひと、いるから」
小声で諭した。
構わず紗耶は玄関の扉を叩き続ける。
「開けて!先生!先生!」
…扉が静かに開かれた。
「先生…!」
玄関に転がり込むように駆け込む。
「やっぱり、あんただね」
扉を開けてくれたのは、紫音だった。
…彼はなぜか微かに嬉しそうに微笑った。
「はいどうぞ。
…あんたの王子様はリビングにいるよ」
…ちっとばかり鼕が立った王子様だけどね…。
「ありがとうございます!」
可笑しげな笑いを背中に、紗耶は廊下を突き進む。
広いリビングで、茫然としたように立ち竦むのは、藤木だ。
彼は紗耶の姿を見て、驚きに息を呑んだ。
「…紗耶さん…。その格好は…」
紗耶は自分の姿を見下ろす。
…極上のペールブルーの総レースのドレスは膝下で引き千切られ、白い脚が露わだ。
綺麗に結い上げられた髪はくしゃくしゃだし、きっと貌も酷いだろう。
けれど、そんなことはどうでも良かった。
…藤木に会うこと以外は、どうでも良かったのだ。
「先生…。
私、婚約式から…お兄ちゃまから逃げ出してきました」
「紗耶さん!なんてことを…!」
藤木の端正な眉が愕然としたように歪む。
「…私、お兄ちゃまとは結婚しません。
だって…先生が好きだから…先生を愛しているから…!
だからここに来ました。
私、自分の耳で先生の言葉を確認するまでは、ここを動きません」
男の美しい榛色の瞳が、切なげに細められた。
…この美しい瞳に、私が映っているのだわ…。
うっとりするような幸福感が、紗耶を押し包む。
…そう、こんな時ですら、このひとは私を酔わせるのだ…。
紗耶は藤木の瞳を、瞬きもせず見つめる。
そうして、震える口唇を開く。
「…先生は、私を好き?」

