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第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ

「…紗耶さん…！」
「好き？
少しでも…ほんの少しでも私が好き？」
勇気を振り絞り、藤木の前に立ち続ける。
全身全霊を傾けて、男を見つめ続ける。
自分のどこにこんな勇気があったのかと、紗耶は思う。
溢れ出る熱い熱情が止まることがないのだ。
…この美しい榛色の瞳の前に…。
…この愛おしい男の前に…。

男は瞼を閉じ…やがて、深いため息を吐きながら、唸るように答えた。

「…好きだよ。
君が…大好きだ…。
…愛している…」
言葉と同時に長い腕に引き寄せられ、抱き竦められた。
…熱く強く、狂おしい抱擁だった。
「…先生…！」
「…こんな…もういい分別をしなくてはならない歳なのに…。
いや、恋をするには遅すぎる歳なのに…君の人生を変えてしまうことなど許されるはずはないのに…それでも君が好きだ…。
何もかも失っても構わないくらいに、君が好きだよ…！」

…深い深い森に咲く百合としっとりとしたモッシーの薫りの胸元に貌を埋め、首を振る。
「…私も好き…先生が好き…。
私の行動で…たくさんのひとを傷つけてしまっても…何もかも壊しても…それでも先生が好き…」
「…紗耶…！」

藤木の胸の中から、貌を上げる。
涙で歪んだ視野の中、男が愛おしげに紗耶を見下ろしていた。
温かな優しい手で涙を拭われる。

「…紗耶…。愛しているよ…」
…そのまま顎を引き寄せられ、温かな吐息が口唇に触れた刹那…


「…あのさ。お取り込み中悪いんだけどさ、高遠のひとたちが今、モーレツにお二人さんを探してるってさ。
…早く逃げたほうがいいんじゃね？」

隼人がスマホを振りながら、不機嫌そうに告げたのだった。