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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ

「…どういうことですか⁈藤木先生…!
紗耶さんも…!」
清瀧柊司は自宅玄関に立ち竦み、茫然としたように二人を見比べた。
「…今日は…紗耶さんと高遠の婚約式ですよね?
僕は類がまだ外出させるには小さいし、澄佳も産後だから欠席させていただいたのだけれど…」
そうだ。清瀧は婚約式に来てはいなかった。
彼は妻の実家のこの内房総の小さな海の街に、大学の育休を取って家族三人で暮らしていたのだ。
…類とは先月産まれたばかりの、彼らの赤ん坊だ。
「まさか…藤木先生…紗耶さんを高遠から奪ってこられたのですか⁈」
紗耶のドレスや髪飾りを見て、清瀧の端正な貌に緊張感が走った。
…引き千切られたドレス、辛うじて髪に飾られているコンテ・ドゥ・シャンポールの薔薇の花…。
どれも不穏な…略奪された花嫁のような尋常ではない姿だったからだろう。
「…そうだよ…柊司くん」
静かに答える藤木に、紗耶が激しく反論する。
「違います!
私が…私が勝手に婚約式から…お兄ちゃまから逃げ出して、先生のところに行ったのです。
先生は悪くないんです!」
清瀧が痛ましげに眉を寄せる。
「紗耶さん…。
なぜ、そんなことをしたの?
君は、千晴を愛していたんだろう?
あんなに、相思相愛だったじゃないか。
それなのになぜ藤木先生と駆け落ちのような真似を…⁈」
…その時、廊下の奥から静かな美しい声が聞こえた。
「…柊司さん。
とりあえずお二人とも、上がっていただいて…。
…まず、紗耶さんを着替えさせて差し上げなくちゃ…」
「…澄佳…」
…奥から現れたのは、清楚な白いワンピースを身につけた眼を見張るほどに美しく嫋やかな女性…柊司の最愛の妻、澄佳であった。
そうして、その白い腕に大切そうに抱かれているのはクリーム色のニットのおくるみに包まれたすやすや眠る愛らしい赤ん坊であった…。
彼女は少しも戸惑う様子を見せることなく、穏やかに紗耶に微笑みかけた。
「…初めまして、紗耶さん。
さあ、こちらにいらして。
お着替えしましょうね。
…柊司さん、藤木さんをリビングにお通しして。
それから温かいお茶を差し上げてね」
…淑やかに…けれどてきぱきとそれらを告げたのだった。
紗耶さんも…!」
清瀧柊司は自宅玄関に立ち竦み、茫然としたように二人を見比べた。
「…今日は…紗耶さんと高遠の婚約式ですよね?
僕は類がまだ外出させるには小さいし、澄佳も産後だから欠席させていただいたのだけれど…」
そうだ。清瀧は婚約式に来てはいなかった。
彼は妻の実家のこの内房総の小さな海の街に、大学の育休を取って家族三人で暮らしていたのだ。
…類とは先月産まれたばかりの、彼らの赤ん坊だ。
「まさか…藤木先生…紗耶さんを高遠から奪ってこられたのですか⁈」
紗耶のドレスや髪飾りを見て、清瀧の端正な貌に緊張感が走った。
…引き千切られたドレス、辛うじて髪に飾られているコンテ・ドゥ・シャンポールの薔薇の花…。
どれも不穏な…略奪された花嫁のような尋常ではない姿だったからだろう。
「…そうだよ…柊司くん」
静かに答える藤木に、紗耶が激しく反論する。
「違います!
私が…私が勝手に婚約式から…お兄ちゃまから逃げ出して、先生のところに行ったのです。
先生は悪くないんです!」
清瀧が痛ましげに眉を寄せる。
「紗耶さん…。
なぜ、そんなことをしたの?
君は、千晴を愛していたんだろう?
あんなに、相思相愛だったじゃないか。
それなのになぜ藤木先生と駆け落ちのような真似を…⁈」
…その時、廊下の奥から静かな美しい声が聞こえた。
「…柊司さん。
とりあえずお二人とも、上がっていただいて…。
…まず、紗耶さんを着替えさせて差し上げなくちゃ…」
「…澄佳…」
…奥から現れたのは、清楚な白いワンピースを身につけた眼を見張るほどに美しく嫋やかな女性…柊司の最愛の妻、澄佳であった。
そうして、その白い腕に大切そうに抱かれているのはクリーム色のニットのおくるみに包まれたすやすや眠る愛らしい赤ん坊であった…。
彼女は少しも戸惑う様子を見せることなく、穏やかに紗耶に微笑みかけた。
「…初めまして、紗耶さん。
さあ、こちらにいらして。
お着替えしましょうね。
…柊司さん、藤木さんをリビングにお通しして。
それから温かいお茶を差し上げてね」
…淑やかに…けれどてきぱきとそれらを告げたのだった。

