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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ

清瀧柊司は、ここ最近これほど仰天するようなことに遭遇したことはなかった。
…駆け落ち?藤木先生と…紗耶さんが…?そんな馬鹿な…!
藤木芳人は知的で冷静で極めて思慮深い紳士だと思っていた。
離婚歴があるのは知っていたが、アメリカ暮らしが長い夫婦だったようだし、元妻は多忙な心臓外科医ということで、そんなこともあるだろうと気にも留めなかった。
十八の息子がおり、一緒に帰国したくらいだから子どもを可愛がっている風でもあった。
年齢よりも遥かに若々しく、また、際立って整った容姿をしていたが、派手な振る舞いもなく、物静かな研究者…といった印象が強かった。
自分は直接には彼を知らないが、最愛の妻、澄佳によると、藤木の実家は祖父が町で唯一の医院を開いていて、藤木の母は、その美貌が見染められ、長野の諏訪市にある大きな総合病院の院長の後添えに乞われ、嫁いで行ったのだそうだ。
『お祖父様のお医者様は優しくて面倒見の良い素晴らしい方だったわ。
藤木先生もお小さい頃、この町に住まれていたのよ』
…そう澄佳は嬉しそうに語っていたのだ。
だから藤木が、親友の高遠の婚約者…二宮紗耶を研究室のアルバイトに雇ったと聞いた時もなんの危惧もしていなかった。
藤木は柊司が知る誰よりも紳士で品格もあり、常識的で倫理的な教授だと信じていたからだ。
だから心配する高遠にお墨付きを与えたのだ。
…その彼がなぜ…?
向かい合わせに座った藤木が、深々と頭を下げた。
「…本当に君を巻き込むようなことになってしまい申し訳ない。
澄佳さんにもご迷惑をお掛けしてしまったね…」
「…藤木先生…。そんなことはいいんです。
僕はただ、なぜ貴方が…」
藤木が頭を上げ、静かに…けれどきっぱりと告げた。
「…僕は紗耶さんを愛してしまった。
けれど、自分が愛だ恋だのという歳ではないのも重々承知している。
何の言い訳も弁解もするつもりはない。
僕が悪い。罪は僕一人のものだ」
そうして、茫然と言葉を失くす柊司に、藤木はこう乞うたのだ。
「柊司くん。高遠千晴くんと連絡を取ってくれないか。
…直接、彼と話したいことがあるのだ」
…駆け落ち?藤木先生と…紗耶さんが…?そんな馬鹿な…!
藤木芳人は知的で冷静で極めて思慮深い紳士だと思っていた。
離婚歴があるのは知っていたが、アメリカ暮らしが長い夫婦だったようだし、元妻は多忙な心臓外科医ということで、そんなこともあるだろうと気にも留めなかった。
十八の息子がおり、一緒に帰国したくらいだから子どもを可愛がっている風でもあった。
年齢よりも遥かに若々しく、また、際立って整った容姿をしていたが、派手な振る舞いもなく、物静かな研究者…といった印象が強かった。
自分は直接には彼を知らないが、最愛の妻、澄佳によると、藤木の実家は祖父が町で唯一の医院を開いていて、藤木の母は、その美貌が見染められ、長野の諏訪市にある大きな総合病院の院長の後添えに乞われ、嫁いで行ったのだそうだ。
『お祖父様のお医者様は優しくて面倒見の良い素晴らしい方だったわ。
藤木先生もお小さい頃、この町に住まれていたのよ』
…そう澄佳は嬉しそうに語っていたのだ。
だから藤木が、親友の高遠の婚約者…二宮紗耶を研究室のアルバイトに雇ったと聞いた時もなんの危惧もしていなかった。
藤木は柊司が知る誰よりも紳士で品格もあり、常識的で倫理的な教授だと信じていたからだ。
だから心配する高遠にお墨付きを与えたのだ。
…その彼がなぜ…?
向かい合わせに座った藤木が、深々と頭を下げた。
「…本当に君を巻き込むようなことになってしまい申し訳ない。
澄佳さんにもご迷惑をお掛けしてしまったね…」
「…藤木先生…。そんなことはいいんです。
僕はただ、なぜ貴方が…」
藤木が頭を上げ、静かに…けれどきっぱりと告げた。
「…僕は紗耶さんを愛してしまった。
けれど、自分が愛だ恋だのという歳ではないのも重々承知している。
何の言い訳も弁解もするつもりはない。
僕が悪い。罪は僕一人のものだ」
そうして、茫然と言葉を失くす柊司に、藤木はこう乞うたのだ。
「柊司くん。高遠千晴くんと連絡を取ってくれないか。
…直接、彼と話したいことがあるのだ」

