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異邦人の庭 〜secret garden〜
第1章 アンジェラの初戀
珍しくしつこく食い下がる紗耶に、華子は意外そうに眼を見張り…けれどすぐにわざとらしいほどの笑顔を作り、甘ったるく囁いた。
「いいわよ。返してあげる。
…取れるならね…!」
そう言い放つと、まるでバレーボールのようにアリスを空に向かって勢いよく放り投げたのだ。
「あっ…!」
空を舞ったアリスはそのままアンジェラが咲き誇るアーチの天辺に力なく落ちた。
紗耶は絶句した。
「あらら…。アーチに引っかかっちゃったあ。
これじゃ、汚い熊さんは取れないわね」
くすくす笑う華子と麗香の前で、紗耶はへなへなとしゃがみこんだ。
…アーチは二メートル以上ある。
大人の…背の高い人間でも手が届くかどうかだ。
ましてや小さな紗耶には遥か彼方の遠い場所だ。
大切なアリスが物のように放り投げられたショックも相まって、紗耶は口もきけないほどに動揺していた。
…どうしよう…アリスが…どうしよう…。
「可愛い熊さんが変わった場所でお昼寝しているね」
…不意に、穏やかなよく通る声が、紗耶の背後から聞こえてきた。
はっと振り返る先に、ひとりの背の高い青年が佇んでいた。
「千晴兄様…!」
華子がバツが悪そうに呟いた。
紗耶も息を呑む。
…この屋敷の若き当主、高遠千晴の姿がそこにはあった。
「熊さんがひとりでこんなところに登れるはずないよね」
そう言いながら青年は長い腕を伸ばし、訳もなくアリスをアーチから下ろしてくれた。
そうして瞬きもせずに驚いている紗耶の手に、優しく手渡してくれたのだ。
「はい。大丈夫、どこも怪我してないよ」
整った貌立ちのその瞳が、優しく細められた。
「…あ、ありがとう…ござい…ます…」
小さな声でお礼を言うのが精一杯だ。
青年はそのまま、華子たちを振り返る。
「…紗耶ちゃんの熊さんを投げたのは華子ちゃん?」
静かだが、ひんやりとした声を二人に向ける。
面食らったように華子が慌てだす。
「ち、違うわ!麗香よ!麗香がふざけて投げたのよ!」
「何よ!やったのはお姉ちゃまでしょ?私じゃないわ!」
小競り合いを始めた二人に、青年が淡々と…しかし厳しく告げた。
「自分より小さな子を虐めちゃだめだよ。
そんな女の子は少しも魅力的じゃないな。
…君たちのお母様が探していたよ。
早く行きなさい」
青年の鶴の一声で、二人は蜘蛛の子を散らすかのように走り去っていった。
「いいわよ。返してあげる。
…取れるならね…!」
そう言い放つと、まるでバレーボールのようにアリスを空に向かって勢いよく放り投げたのだ。
「あっ…!」
空を舞ったアリスはそのままアンジェラが咲き誇るアーチの天辺に力なく落ちた。
紗耶は絶句した。
「あらら…。アーチに引っかかっちゃったあ。
これじゃ、汚い熊さんは取れないわね」
くすくす笑う華子と麗香の前で、紗耶はへなへなとしゃがみこんだ。
…アーチは二メートル以上ある。
大人の…背の高い人間でも手が届くかどうかだ。
ましてや小さな紗耶には遥か彼方の遠い場所だ。
大切なアリスが物のように放り投げられたショックも相まって、紗耶は口もきけないほどに動揺していた。
…どうしよう…アリスが…どうしよう…。
「可愛い熊さんが変わった場所でお昼寝しているね」
…不意に、穏やかなよく通る声が、紗耶の背後から聞こえてきた。
はっと振り返る先に、ひとりの背の高い青年が佇んでいた。
「千晴兄様…!」
華子がバツが悪そうに呟いた。
紗耶も息を呑む。
…この屋敷の若き当主、高遠千晴の姿がそこにはあった。
「熊さんがひとりでこんなところに登れるはずないよね」
そう言いながら青年は長い腕を伸ばし、訳もなくアリスをアーチから下ろしてくれた。
そうして瞬きもせずに驚いている紗耶の手に、優しく手渡してくれたのだ。
「はい。大丈夫、どこも怪我してないよ」
整った貌立ちのその瞳が、優しく細められた。
「…あ、ありがとう…ござい…ます…」
小さな声でお礼を言うのが精一杯だ。
青年はそのまま、華子たちを振り返る。
「…紗耶ちゃんの熊さんを投げたのは華子ちゃん?」
静かだが、ひんやりとした声を二人に向ける。
面食らったように華子が慌てだす。
「ち、違うわ!麗香よ!麗香がふざけて投げたのよ!」
「何よ!やったのはお姉ちゃまでしょ?私じゃないわ!」
小競り合いを始めた二人に、青年が淡々と…しかし厳しく告げた。
「自分より小さな子を虐めちゃだめだよ。
そんな女の子は少しも魅力的じゃないな。
…君たちのお母様が探していたよ。
早く行きなさい」
青年の鶴の一声で、二人は蜘蛛の子を散らすかのように走り去っていった。