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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ

「…ああ、もうずっと使ってなかったから…風を通さなきゃね…」
藤木はそう言って、古びた実家の硝子窓を開け放した。
軋みながら窓が開くと、新鮮な潮風が優しく吹き込んできた。
「…わあ…!海が見えるのね…!」
藤木の隣に立つ紗耶は歓声を上げた。
眼の前には、深い瑠璃色の穏やかな海が広がっていた…。
「…うん…。
…久しぶりに観ると…やっぱり綺麗だな…」
藤木もしみじみと息を吐いた。
…長く閉院した個人医院の続き隣が、藤木の実家だった。
その古めかしい日本家屋は、内房総の静かな美しい海が見下ろせる小さな高台に建っていた。
藤木の祖父が開いていた診療所は、閉じて数十年は経っているという。
藤木の母も最新設備の整った看護付きシニアマンションに移って久しいので、ここはずっと空き家だったらしい。
「…母が時々風を入れていたらしいけれど…高齢になって最近はなかなか来れなかったみたいだ」
…それでも管理人が季節ごとに手を入れているらしい庭は、見苦しくない程度には整っている。
枝振りの良い松や柿の木、桜の木、枇杷の木など、いかにも古い旧家の庭といった情緒ある風情だ。
「かろうじて電気と水道は通っているから良かった。
温泉も、内風呂に引いてあるよ。
しばらく出しっぱなしにすれば良い湯が沸く。
…紗耶さん。お風呂に入る?」
部屋の中を案内するように歩きながら、藤木が振り返った。
紗耶は少し貌を赤らめ、首を振る。
そうして、気掛かりだったことを思い切って尋ねてみた。
「…あの…藤木先生…。
…千晴お兄ちゃまは…なんて…?」
さっき、清瀧家を辞するとき…
『では、千晴には僕からも申し添えておきますよ…』
と、柊司がそっと藤木に告げていたのを耳にしたからだ。
紗耶が澄佳と話している間、藤木と千晴が電話で何らかの話し合いをしていたらしいことは、言葉の端々で見て取れたのだ。
藤木は脚を止め、ゆっくりと振り返ると、その美しい榛色の瞳を優しく細めた。
「…大丈夫。紗耶さんは何も心配しなくて良いよ…」
そう言うとそのしなやかな長い指を伸ばし、紗耶の白い頰に触れた。
…そうして…
「…今日は、僕のことだけを考えて…」
甘くて囁かれ、そのまま静かに…けれど強く強く抱きしめられたのだ…。
藤木はそう言って、古びた実家の硝子窓を開け放した。
軋みながら窓が開くと、新鮮な潮風が優しく吹き込んできた。
「…わあ…!海が見えるのね…!」
藤木の隣に立つ紗耶は歓声を上げた。
眼の前には、深い瑠璃色の穏やかな海が広がっていた…。
「…うん…。
…久しぶりに観ると…やっぱり綺麗だな…」
藤木もしみじみと息を吐いた。
…長く閉院した個人医院の続き隣が、藤木の実家だった。
その古めかしい日本家屋は、内房総の静かな美しい海が見下ろせる小さな高台に建っていた。
藤木の祖父が開いていた診療所は、閉じて数十年は経っているという。
藤木の母も最新設備の整った看護付きシニアマンションに移って久しいので、ここはずっと空き家だったらしい。
「…母が時々風を入れていたらしいけれど…高齢になって最近はなかなか来れなかったみたいだ」
…それでも管理人が季節ごとに手を入れているらしい庭は、見苦しくない程度には整っている。
枝振りの良い松や柿の木、桜の木、枇杷の木など、いかにも古い旧家の庭といった情緒ある風情だ。
「かろうじて電気と水道は通っているから良かった。
温泉も、内風呂に引いてあるよ。
しばらく出しっぱなしにすれば良い湯が沸く。
…紗耶さん。お風呂に入る?」
部屋の中を案内するように歩きながら、藤木が振り返った。
紗耶は少し貌を赤らめ、首を振る。
そうして、気掛かりだったことを思い切って尋ねてみた。
「…あの…藤木先生…。
…千晴お兄ちゃまは…なんて…?」
さっき、清瀧家を辞するとき…
『では、千晴には僕からも申し添えておきますよ…』
と、柊司がそっと藤木に告げていたのを耳にしたからだ。
紗耶が澄佳と話している間、藤木と千晴が電話で何らかの話し合いをしていたらしいことは、言葉の端々で見て取れたのだ。
藤木は脚を止め、ゆっくりと振り返ると、その美しい榛色の瞳を優しく細めた。
「…大丈夫。紗耶さんは何も心配しなくて良いよ…」
そう言うとそのしなやかな長い指を伸ばし、紗耶の白い頰に触れた。
…そうして…
「…今日は、僕のことだけを考えて…」
甘くて囁かれ、そのまま静かに…けれど強く強く抱きしめられたのだ…。

