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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ

「…昔昔、小さな海の村にそれはそれは美しい娘がおりました。
その長い髪は黒い絹糸のよう…その瞳は夜の海より深い射干玉色…その口唇は珊瑚色…その肌は海に眠る真珠よりも白く、村中の男たちの憧れの的でした。
年頃の娘は、いつしかひとりの青年に恋をしました。
若く逞しく爽やかな漁師の青年と娘は似合いの恋人同士となり、結婚を誓い合いました。
しかし、裕福な家の娘と違い、貧しい青年のことを娘の両親は認めようとしませんでした。
『この村の誰よりも大きな獲物を取って、お前の両親に結婚を認めさせてみせる。
待っていてくれ』
そう娘に約束した青年は、来る日も来る日も果敢に漁に挑みました。
…そんなある日のこと、いつものように漁に出た青年は、思いがけぬ嵐に巻き込まれ、小さな船は転覆し、あっと言う間に海の底に沈んでしまいました」
藤木の声は低くよく通る…そしてどこか哀愁を帯びた声だ。
紗耶は物語に引き込まれ、思わず美しい眉を顰めた。
「…それで…?どうなったの?」
藤木は紗耶を優しく抱き寄せ、その髪にキスを落とし、話を続けた。
「…海の底には海の魔女・セイレーンが棲んでいました。
恐ろしいセイレーンは若く美しい若者が気に入ってしまい、ここで自分と暮らす様に迫ります。
けれど青年は頑として拒みました。
『私には結婚を誓った恋人がおります。
どうか私を元の世界へ還してください』
怒ったセイレーンは青年に言いました。
『還しても良いが、このままの姿で帰れると思うなよ。
それでも良いのか?』
『どんな姿でも構いません。
私を恋人のところに還してくださるのなら。
どうかお願いです。
私を恋人のところに還してください』
セイレーンは恐ろしい声で笑いました。
『よかろう。
愚かな若者よ。
愛の儚さ、恋の脆さをその身で知るが良い』
…突然、夥しい海の水泡が若者を取り囲みます。
次の瞬間、若者は再び大きな渦に巻き込まれていたのです」
その長い髪は黒い絹糸のよう…その瞳は夜の海より深い射干玉色…その口唇は珊瑚色…その肌は海に眠る真珠よりも白く、村中の男たちの憧れの的でした。
年頃の娘は、いつしかひとりの青年に恋をしました。
若く逞しく爽やかな漁師の青年と娘は似合いの恋人同士となり、結婚を誓い合いました。
しかし、裕福な家の娘と違い、貧しい青年のことを娘の両親は認めようとしませんでした。
『この村の誰よりも大きな獲物を取って、お前の両親に結婚を認めさせてみせる。
待っていてくれ』
そう娘に約束した青年は、来る日も来る日も果敢に漁に挑みました。
…そんなある日のこと、いつものように漁に出た青年は、思いがけぬ嵐に巻き込まれ、小さな船は転覆し、あっと言う間に海の底に沈んでしまいました」
藤木の声は低くよく通る…そしてどこか哀愁を帯びた声だ。
紗耶は物語に引き込まれ、思わず美しい眉を顰めた。
「…それで…?どうなったの?」
藤木は紗耶を優しく抱き寄せ、その髪にキスを落とし、話を続けた。
「…海の底には海の魔女・セイレーンが棲んでいました。
恐ろしいセイレーンは若く美しい若者が気に入ってしまい、ここで自分と暮らす様に迫ります。
けれど青年は頑として拒みました。
『私には結婚を誓った恋人がおります。
どうか私を元の世界へ還してください』
怒ったセイレーンは青年に言いました。
『還しても良いが、このままの姿で帰れると思うなよ。
それでも良いのか?』
『どんな姿でも構いません。
私を恋人のところに還してくださるのなら。
どうかお願いです。
私を恋人のところに還してください』
セイレーンは恐ろしい声で笑いました。
『よかろう。
愚かな若者よ。
愛の儚さ、恋の脆さをその身で知るが良い』
…突然、夥しい海の水泡が若者を取り囲みます。
次の瞬間、若者は再び大きな渦に巻き込まれていたのです」

