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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ

「…どれくらい時間が経ったのでしょうか…。
若者は先ほどの海辺にぼんやりと佇んでいました。
…まさか…そんな馬鹿な…。
祈る様な気持ちで、海に入り、その透明な水面に恐る恐る自分の貌を写します。
『…あっ…!』
若者は思わず叫びました。
…揺らめく水面鏡に映るその姿は、一千年も歳を取った仙人のような長く艶のない白髪…落ち窪んだ眼…皺だらけの老いさらばえた干からびたような見窄らしい老人だったのです。
『そんな…そんな馬鹿な…!』
若者は思わず砂浜にしゃがみ込みます。
…そうして、あの恐ろしいセイレーンの言葉を思い出すのでした。
『私に歯向かい、このままの姿で還れると思うなよ!
愛の儚さ、恋の脆さを知るが良い!』
海の魔女・セイレーンの喧騒しい笑い声が耳に甦りました。
『…なんて…なんてことだ!
俺は…老人の姿に換えられてしまったのか…!』
…そして、老人に成り果てた若者に娘は気づきもしませんでした。
それだけでなく、あからさまに嫌悪の表情を浮かべ、若者を拒んだのです。
それは、何ごとにも耐え難い事実でした。
…老人に姿を変えられた若者にはもはや、生きる術がありません。
村の誰もが老人の姿の若者を知りません。
元々、親を早くに亡くした若者には依るべく親戚もいませんでした。
この村にいても、若者は単なる異邦人なのです。
絶望感に襲われた若者は、ふらふらと海に入ってゆきました。
暗い群青色の海の中からは、セイレーンの不気味な笑い声が聞こえてきました。
『愚か者よ。
愛だ恋だの、そのような綺麗事が永遠に続くと思っていたのか?
…それらは儚い一睡の夢…。
お前の愛おしい娘はお前の外見が変わっただけで、嫌いになったのさ。
…愚かなお前、そしてもっと愚かな娘よ…!』
セイレーンの高笑いはそのまま大きな波のうねりとなり、若者を飲み込み、やがて、海は何ごともなかったかのようにまた元の静寂を取り戻したのでした…」
若者は先ほどの海辺にぼんやりと佇んでいました。
…まさか…そんな馬鹿な…。
祈る様な気持ちで、海に入り、その透明な水面に恐る恐る自分の貌を写します。
『…あっ…!』
若者は思わず叫びました。
…揺らめく水面鏡に映るその姿は、一千年も歳を取った仙人のような長く艶のない白髪…落ち窪んだ眼…皺だらけの老いさらばえた干からびたような見窄らしい老人だったのです。
『そんな…そんな馬鹿な…!』
若者は思わず砂浜にしゃがみ込みます。
…そうして、あの恐ろしいセイレーンの言葉を思い出すのでした。
『私に歯向かい、このままの姿で還れると思うなよ!
愛の儚さ、恋の脆さを知るが良い!』
海の魔女・セイレーンの喧騒しい笑い声が耳に甦りました。
『…なんて…なんてことだ!
俺は…老人の姿に換えられてしまったのか…!』
…そして、老人に成り果てた若者に娘は気づきもしませんでした。
それだけでなく、あからさまに嫌悪の表情を浮かべ、若者を拒んだのです。
それは、何ごとにも耐え難い事実でした。
…老人に姿を変えられた若者にはもはや、生きる術がありません。
村の誰もが老人の姿の若者を知りません。
元々、親を早くに亡くした若者には依るべく親戚もいませんでした。
この村にいても、若者は単なる異邦人なのです。
絶望感に襲われた若者は、ふらふらと海に入ってゆきました。
暗い群青色の海の中からは、セイレーンの不気味な笑い声が聞こえてきました。
『愚か者よ。
愛だ恋だの、そのような綺麗事が永遠に続くと思っていたのか?
…それらは儚い一睡の夢…。
お前の愛おしい娘はお前の外見が変わっただけで、嫌いになったのさ。
…愚かなお前、そしてもっと愚かな娘よ…!』
セイレーンの高笑いはそのまま大きな波のうねりとなり、若者を飲み込み、やがて、海は何ごともなかったかのようにまた元の静寂を取り戻したのでした…」

