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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ

「その夜、娘は足早に海辺へ向かいました。
ふと、稲妻に打たれたかのように脳裏に浮かんだことが、娘をある衝動へと駆り立てたのです。
『…まさか…あのお爺さんが…私の恋人…⁈
まさか…そんな馬鹿な…!』
…けれど、娘にはあの老人の哀しげな眼差しに、どこか見覚えがあったのです。
娘は老人を見かけたという浜辺に辿り着きました。
…月もない寂しい夜でした。
娘は暗い…魔界への闇の入り口のような海原に向かって、恋人の名を呼びました。
…すると、射干玉色の海面が一面、絹織物を広げたかのように明るい星屑のような光に覆われました。
驚く娘の瞳に、海中の様子が不意に透けて見えだしました。
『…ああっ!!
貴方は…!!』
…そこには、見るも恐ろしい海の魔女・セイレーンに抱かれた若者が眠るように眼を閉じていました。
セイレーンは可笑しそうに娘を見遣ります。
『愚かな娘よ。
お前は恋人の外見しか愛していなかったのだ。
お前の愛も恋も全ては偽もの、安っぽい紛いものだ。
これはお前への罰だ。
若者は私が貰う。
お前は一生、その愚かさを悔いて嘆いて生きるが良い』
…そう言いながら、禍々しい海鳴りのような笑い声を立てて、海の底へと若者とともに消えていってしまったのです」
ふと、稲妻に打たれたかのように脳裏に浮かんだことが、娘をある衝動へと駆り立てたのです。
『…まさか…あのお爺さんが…私の恋人…⁈
まさか…そんな馬鹿な…!』
…けれど、娘にはあの老人の哀しげな眼差しに、どこか見覚えがあったのです。
娘は老人を見かけたという浜辺に辿り着きました。
…月もない寂しい夜でした。
娘は暗い…魔界への闇の入り口のような海原に向かって、恋人の名を呼びました。
…すると、射干玉色の海面が一面、絹織物を広げたかのように明るい星屑のような光に覆われました。
驚く娘の瞳に、海中の様子が不意に透けて見えだしました。
『…ああっ!!
貴方は…!!』
…そこには、見るも恐ろしい海の魔女・セイレーンに抱かれた若者が眠るように眼を閉じていました。
セイレーンは可笑しそうに娘を見遣ります。
『愚かな娘よ。
お前は恋人の外見しか愛していなかったのだ。
お前の愛も恋も全ては偽もの、安っぽい紛いものだ。
これはお前への罰だ。
若者は私が貰う。
お前は一生、その愚かさを悔いて嘆いて生きるが良い』
…そう言いながら、禍々しい海鳴りのような笑い声を立てて、海の底へと若者とともに消えていってしまったのです」

