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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ

…ああ…と、男が頷いた。
「海鳴りだよ…」
「海鳴り?」
「そう。
怖くはないさ。
…僕にとって、あの音は子守唄だった…」
「子守唄…?」
不思議そうに見上げると、藤木は紗耶の肩を抱き、並んで漆黒の海を見つめる。
…紗耶にはまだ見えない、幻のような海を…。
「…僕の母は諏訪の病院長をしている父の後妻に入ってね…。
それで僕が生まれたのだけれど…最初の頃は先妻の息子…つまり僕の義兄が母も僕も気に入らなくて…特に僕を憎んで、荒れていた時期があったんだ。
それで母は僕を守るために、一緒に住むことを遠慮していたんだ。
…母だけは時々父の世話をしに諏訪に行って、僕はここで年老いた祖父母と暮らしていた。
…中学に上がる年までね…」
「…そうだったの…」
ぼんやり灯る室内灯の灯りに、藤木の端正な横貌が浮かび上がる。
灯りに彩られた榛色の瞳は温かみを増した色に染められ、紗耶を見下ろす。
「退屈だね、こんな辛気臭い話は…」
紗耶は首を振る。
「聴きたいわ。
私、先生のことはなんでも知りたい。
たくさん、たくさん知りたい」
…このひとのことを一から十まですべて知りたい。
知らないことは何ひとつないくらいに…。
ふっと柔らかく微笑む気配がして、紗耶の肩を強く抱き寄せられる。
「…ありがとう…」
言葉とともに、温かな唇が紗耶の白い額に落ちる。
…それは、愛の恩寵のように、紗耶の身体の隅々まで染み渡る…。
藤木は、静かに語り始めた…。
「海鳴りだよ…」
「海鳴り?」
「そう。
怖くはないさ。
…僕にとって、あの音は子守唄だった…」
「子守唄…?」
不思議そうに見上げると、藤木は紗耶の肩を抱き、並んで漆黒の海を見つめる。
…紗耶にはまだ見えない、幻のような海を…。
「…僕の母は諏訪の病院長をしている父の後妻に入ってね…。
それで僕が生まれたのだけれど…最初の頃は先妻の息子…つまり僕の義兄が母も僕も気に入らなくて…特に僕を憎んで、荒れていた時期があったんだ。
それで母は僕を守るために、一緒に住むことを遠慮していたんだ。
…母だけは時々父の世話をしに諏訪に行って、僕はここで年老いた祖父母と暮らしていた。
…中学に上がる年までね…」
「…そうだったの…」
ぼんやり灯る室内灯の灯りに、藤木の端正な横貌が浮かび上がる。
灯りに彩られた榛色の瞳は温かみを増した色に染められ、紗耶を見下ろす。
「退屈だね、こんな辛気臭い話は…」
紗耶は首を振る。
「聴きたいわ。
私、先生のことはなんでも知りたい。
たくさん、たくさん知りたい」
…このひとのことを一から十まですべて知りたい。
知らないことは何ひとつないくらいに…。
ふっと柔らかく微笑む気配がして、紗耶の肩を強く抱き寄せられる。
「…ありがとう…」
言葉とともに、温かな唇が紗耶の白い額に落ちる。
…それは、愛の恩寵のように、紗耶の身体の隅々まで染み渡る…。
藤木は、静かに語り始めた…。

