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第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ

「…先生…」
「…僕は君の清らかな美しさに心が洗われたんだ。
救われたと言ってもいい。
僕は酷い男だ。
君のお母様を傷つけ、悲しませた。
愛していたけれど、彼女を選べなかった。
…いや、選ばなかった。
妻も…結果的に傷つけてしまった。
愛を手段のように扱ってしまったからだ。
…息子も…きっと知らない内にたくさん傷つけた…。
誰も幸せにしてあげられなかった。
…僕の優柔不断な…中途半端な優しさが、みんなを不幸にした」

藤木の端正な横貌が、苦しげに歪んだ。

「…先生…」
紗耶の呼びかけにゆっくりと振り向き、穏やかに微笑む。

…でもね…
と、紗耶の顎を静かに引き寄せる。

そうして、まるで玻璃でできた宝物を扱うようにそっと手の甲で紗耶の白い頬を撫でた。

「…でも、君だけは不幸にはしない。
君のこの美しさを、哀しみで曇らせたりはしない。
約束するよ」

「…先生…」
…嬉しさよりも、切なさが熱い泉のように込み上げる。

紗耶の髪に、この上ない優しい仕草のキスを落とす。

…そうして、まるで幼子を寝かしつけるように背中をゆっくり撫で始めた。

「…今夜は、このまま眠ろう…」
藤木が静かに告げた。

「…え…？」
訝しげに長い睫毛を瞬かせる。

「…一緒に、こうして抱き合って眠ろう…」

…何もしなくていい。
キスだけをして…
何度も…何度も…

歌うように囁きながら、藤木はしっとりとした優しいキスの雨を降らせた…。