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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ

「…お母様…。
お母様の過去は過ちなんかじゃないわ」
紗耶の小さいけれど凛とした言葉に、紫織は大きな瞳を更に見開いた。
「紗耶ちゃん…?」
長い睫毛を瞬き、紗耶は懸命に言葉を紡ぐ。
「…ひとを愛することは、素晴らしいことだわ。
お母様が先生を愛したことが誤りなはずがないわ」
…だって…
と、紗耶は厳しい表情で立ち尽くす政彦に視線を移す。
「…藤木先生との過去があったから、お父様とこうしてお幸せになられたのよね?…お母様…」
「紗耶ちゃん!」
紫織は息を呑み、言葉を失くした。
「お母様…私、先生を…藤木先生を愛しています」
…けれど、政彦は厳しい言葉で遮った。
「紗耶!
お父様は断固として認めない。
相手がお母様の昔の恋人だから…ということもあるが…私とたいして歳も違わない男と…ましてや、離婚歴がある男と…なんて…。
お前が幸せになれる相手とは思えない。
…それに第一、お前は千晴くんと婚約しているのだよ。
自分の意思で。
それを今さら反古にするのか?
たかが一時の気の迷いの恋に…!
…しかもその男はお前から去ったというじゃないか。
お前を置き去りにして。
そんな男のためにお前は人生を棒に振るというのか?
あり得ない…!
目を覚ましなさい。紗耶…!」
政彦がこの上なく険しい表情で紗耶に詰め寄る。
いつだって誰よりも優しく、紗耶を理解し応援してくれた政彦が…。
…こんなお父様は初めて見るわ…。
紗耶の胸は哀しみで押しつぶされそうだ。
…大好きなお父様が…こんなにも苦しんでいらっしゃる…。
私のせいで…。
…でも…。
「お父様…。
お願い。私の話を聞いて…」
…その時、客間の扉が重々しく軋みながら開いた。
「…千晴様。
大奥様からのご伝言でございます。
今すぐに紗耶様をお連れになり、大広間にいらしてくださいませ。
政彦様、紫織様もご一緒に…」
黒い…さながら喪服のように見える侍女の制服に身を固めた七重が冷たい鋼鉄のような表情で、淡々と告げたのだ。
お母様の過去は過ちなんかじゃないわ」
紗耶の小さいけれど凛とした言葉に、紫織は大きな瞳を更に見開いた。
「紗耶ちゃん…?」
長い睫毛を瞬き、紗耶は懸命に言葉を紡ぐ。
「…ひとを愛することは、素晴らしいことだわ。
お母様が先生を愛したことが誤りなはずがないわ」
…だって…
と、紗耶は厳しい表情で立ち尽くす政彦に視線を移す。
「…藤木先生との過去があったから、お父様とこうしてお幸せになられたのよね?…お母様…」
「紗耶ちゃん!」
紫織は息を呑み、言葉を失くした。
「お母様…私、先生を…藤木先生を愛しています」
…けれど、政彦は厳しい言葉で遮った。
「紗耶!
お父様は断固として認めない。
相手がお母様の昔の恋人だから…ということもあるが…私とたいして歳も違わない男と…ましてや、離婚歴がある男と…なんて…。
お前が幸せになれる相手とは思えない。
…それに第一、お前は千晴くんと婚約しているのだよ。
自分の意思で。
それを今さら反古にするのか?
たかが一時の気の迷いの恋に…!
…しかもその男はお前から去ったというじゃないか。
お前を置き去りにして。
そんな男のためにお前は人生を棒に振るというのか?
あり得ない…!
目を覚ましなさい。紗耶…!」
政彦がこの上なく険しい表情で紗耶に詰め寄る。
いつだって誰よりも優しく、紗耶を理解し応援してくれた政彦が…。
…こんなお父様は初めて見るわ…。
紗耶の胸は哀しみで押しつぶされそうだ。
…大好きなお父様が…こんなにも苦しんでいらっしゃる…。
私のせいで…。
…でも…。
「お父様…。
お願い。私の話を聞いて…」
…その時、客間の扉が重々しく軋みながら開いた。
「…千晴様。
大奥様からのご伝言でございます。
今すぐに紗耶様をお連れになり、大広間にいらしてくださいませ。
政彦様、紫織様もご一緒に…」
黒い…さながら喪服のように見える侍女の制服に身を固めた七重が冷たい鋼鉄のような表情で、淡々と告げたのだ。

