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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ

…冷たい大理石の床が、紗耶の白い脚を深々と冷えさせる。
こんな、身が縮むように惨めな想いは初めてだ。
もし仮にあったとしても、今までは政彦が、紫織が、千晴が、すぐに庇ってくれた。
彼らは、紗耶が傷つくことを何より恐れ、きめ細やかに手厚く保護をし続けて来たからだ。
だから紗耶は、最小限度しか傷つかないで済んだ。
…けれど今は…
紗耶ひとりで立ち向かわなくてはならないのだ。
…徳子に…
いや、高遠一族に、世間に、すべてのひとに。
「…紗耶。
貴女はどういうつもりで千晴さんとの婚約式を中止したのですか?
体調不良ではないことは、ここにいる皆がもう承知しています」
徳子がまるで昨日の天気を尋ねるかのように淡々と質問した。
居並ぶ親族の最前列に座る松嶋華子が、侮蔑するように細い眉を跳ね上げ、無遠慮に紗耶を眺め回していた。
千晴に恋焦がれ、彼の元に嫁ぐことを熱望していた華子は、未だに紗耶が千晴の花嫁になることを納得してはいない。
事あるごとに、紗耶が如何に未熟で魅力のない、不出来な少女かと言うことを周囲に吹聴しているほどだ。
紗耶は口唇をきゅっと引き結んだ。
…真実を語ることは、紗耶に関わるすべてのひとを傷つけることになるのだ。
自分はいい。
…けれど…。
「真実をおっしゃい。
私は気が長くはないのですよ」
やや苛立ったような徳子の言葉に、紗耶は深く息を吸い、一度瞼を閉じた。
それからゆっくりと長い睫毛を瞬かせると、玉座に君臨する徳子を見上げた。
「…私が、千晴お兄ちゃま以外のひとを好きになったからです」
こんな、身が縮むように惨めな想いは初めてだ。
もし仮にあったとしても、今までは政彦が、紫織が、千晴が、すぐに庇ってくれた。
彼らは、紗耶が傷つくことを何より恐れ、きめ細やかに手厚く保護をし続けて来たからだ。
だから紗耶は、最小限度しか傷つかないで済んだ。
…けれど今は…
紗耶ひとりで立ち向かわなくてはならないのだ。
…徳子に…
いや、高遠一族に、世間に、すべてのひとに。
「…紗耶。
貴女はどういうつもりで千晴さんとの婚約式を中止したのですか?
体調不良ではないことは、ここにいる皆がもう承知しています」
徳子がまるで昨日の天気を尋ねるかのように淡々と質問した。
居並ぶ親族の最前列に座る松嶋華子が、侮蔑するように細い眉を跳ね上げ、無遠慮に紗耶を眺め回していた。
千晴に恋焦がれ、彼の元に嫁ぐことを熱望していた華子は、未だに紗耶が千晴の花嫁になることを納得してはいない。
事あるごとに、紗耶が如何に未熟で魅力のない、不出来な少女かと言うことを周囲に吹聴しているほどだ。
紗耶は口唇をきゅっと引き結んだ。
…真実を語ることは、紗耶に関わるすべてのひとを傷つけることになるのだ。
自分はいい。
…けれど…。
「真実をおっしゃい。
私は気が長くはないのですよ」
やや苛立ったような徳子の言葉に、紗耶は深く息を吸い、一度瞼を閉じた。
それからゆっくりと長い睫毛を瞬かせると、玉座に君臨する徳子を見上げた。
「…私が、千晴お兄ちゃま以外のひとを好きになったからです」

