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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ

徳子の部屋を訪ねると、七重が恭しく千晴を出迎え、取り次いだ。
「大奥様。千晴様です」
「…大お祖母様。失礼いたします」
部屋の奥、窓辺から外を眺めていた徳子がゆっくりと振り返り、尋ねた。
「…紫織さんのご様子はいかがですか?」
千晴は眼を見張る。
…気づいていないようで細かなことまで把握している徳子に今更ながら驚く。
「…東翼の客間で休んでいただいています。
大お祖母様のお許しも得ずに…でしたが」
「そんなこと、当然でしょう。
…紫織さんはこれから高遠一族に連なる貴重なお子を産まれるのですよ。
大切にしなくてはなりません。
私は妊婦だけには寛大なのですよ」
…ましてや…
ちらりと千晴を見遣り、薄い口唇を釣り上げた。
「…二宮家はひとり、年頃の娘を失ってしまうのですからね」
千晴は苦笑した。
「大お祖母様…恐れながら申し上げます」
駄目で元々と、取りなしを口にしようとすると…
「武士に二言はないと言いますが、高遠一族の者も本家に対して二言はありません。
それは政彦さんもよくご存知でしょう」
にべもなく、断られる。
「もちろん。政彦義兄さんは約束を違わぬひとです。
紗耶さんは早晩勘当されるでしょう」
…自分で口にすると、胸がずきりと傷んだ。
それはしかし、紗耶を失う哀しみ…というよりも、まだ少女の紗耶にひとりで世間に、人生に立ち向かわせることへの痛みであった。
…そう思える自分も少し不思議ではあったが…。
ふんと徳子は鼻を鳴らす。
「…千晴さんもお人が良すぎるわ。
婚約者の貴方を裏切って他の男性を好きになり、駆け落ちまがいの事件を起こしたのですよ。
少しは怒ったらいかがなの?」
「大奥様。千晴様です」
「…大お祖母様。失礼いたします」
部屋の奥、窓辺から外を眺めていた徳子がゆっくりと振り返り、尋ねた。
「…紫織さんのご様子はいかがですか?」
千晴は眼を見張る。
…気づいていないようで細かなことまで把握している徳子に今更ながら驚く。
「…東翼の客間で休んでいただいています。
大お祖母様のお許しも得ずに…でしたが」
「そんなこと、当然でしょう。
…紫織さんはこれから高遠一族に連なる貴重なお子を産まれるのですよ。
大切にしなくてはなりません。
私は妊婦だけには寛大なのですよ」
…ましてや…
ちらりと千晴を見遣り、薄い口唇を釣り上げた。
「…二宮家はひとり、年頃の娘を失ってしまうのですからね」
千晴は苦笑した。
「大お祖母様…恐れながら申し上げます」
駄目で元々と、取りなしを口にしようとすると…
「武士に二言はないと言いますが、高遠一族の者も本家に対して二言はありません。
それは政彦さんもよくご存知でしょう」
にべもなく、断られる。
「もちろん。政彦義兄さんは約束を違わぬひとです。
紗耶さんは早晩勘当されるでしょう」
…自分で口にすると、胸がずきりと傷んだ。
それはしかし、紗耶を失う哀しみ…というよりも、まだ少女の紗耶にひとりで世間に、人生に立ち向かわせることへの痛みであった。
…そう思える自分も少し不思議ではあったが…。
ふんと徳子は鼻を鳴らす。
「…千晴さんもお人が良すぎるわ。
婚約者の貴方を裏切って他の男性を好きになり、駆け落ちまがいの事件を起こしたのですよ。
少しは怒ったらいかがなの?」

