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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ

千晴は苦笑しながら、徳子に歩み寄る。
「…そうですね…」
…祖母の香水…ゲランのミツコが静かに薫る。
千晴には懐かしい…優しく温かな祖母を象徴する安堵する香りだ。
「…最初はやはりショックでしたが…紗耶ちゃんにとって私は『お兄ちゃま』以外の何ものでもなかったのだと思いが至ったら…案外腑に落ちたのです」
徳子が大袈裟にため息を吐く。
「…まったく…。
貴方の大切な花嫁がいなくなったというのに…。
呑気すぎますよ」
…それとも…
と、徳子は秘密めいた眼差しを細めて見せた。
「…やはり貴方の意中の人は、東翼で眠っているあの美しい人妻なのかしら?」
「…大お祖母様…」
徳子は時々、巫女や占師のように予言や神託めいたことを口にすることがあるのだ。
それは恐ろしいほど当たることもあるし、全く当たらないこともあった。
だから千晴は抗う気も失せ、少し惚けて首を傾げる。
「…さあ、どうでしょうか。
紫織さんのことは今も好きですよ。
…私にとっての初恋ですからね。
…そう簡単には忘れられません」
…それに…
千晴は客間の寝台に横たわる紫織に想いを馳せる。
…さながら王子の口づけを待つ美しく魅惑的な眠り姫のように…
「…私には紫織さんが紗耶ちゃんであり、紗耶ちゃんが紫織さんでもあるのです。
さながらコインの表裏のように…表裏一体なのですよ…」
…だから、紗耶を失っても、紫織がいる…。
この手に抱けなくとも、我が物にできなくとも、近くであの美しい永遠の初恋のひとを見ていられるのだ…。
それで良いではないか…と、千晴の心は不思議と静かに凪ていたのだ。
「…そうですね…」
…祖母の香水…ゲランのミツコが静かに薫る。
千晴には懐かしい…優しく温かな祖母を象徴する安堵する香りだ。
「…最初はやはりショックでしたが…紗耶ちゃんにとって私は『お兄ちゃま』以外の何ものでもなかったのだと思いが至ったら…案外腑に落ちたのです」
徳子が大袈裟にため息を吐く。
「…まったく…。
貴方の大切な花嫁がいなくなったというのに…。
呑気すぎますよ」
…それとも…
と、徳子は秘密めいた眼差しを細めて見せた。
「…やはり貴方の意中の人は、東翼で眠っているあの美しい人妻なのかしら?」
「…大お祖母様…」
徳子は時々、巫女や占師のように予言や神託めいたことを口にすることがあるのだ。
それは恐ろしいほど当たることもあるし、全く当たらないこともあった。
だから千晴は抗う気も失せ、少し惚けて首を傾げる。
「…さあ、どうでしょうか。
紫織さんのことは今も好きですよ。
…私にとっての初恋ですからね。
…そう簡単には忘れられません」
…それに…
千晴は客間の寝台に横たわる紫織に想いを馳せる。
…さながら王子の口づけを待つ美しく魅惑的な眠り姫のように…
「…私には紫織さんが紗耶ちゃんであり、紗耶ちゃんが紫織さんでもあるのです。
さながらコインの表裏のように…表裏一体なのですよ…」
…だから、紗耶を失っても、紫織がいる…。
この手に抱けなくとも、我が物にできなくとも、近くであの美しい永遠の初恋のひとを見ていられるのだ…。
それで良いではないか…と、千晴の心は不思議と静かに凪ていたのだ。

