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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ
「まあまあ、貴方ったら…!
重症だわね。
…まるで恋の迷い子のようだわ。
高遠本家の当主が…本当に困ったこと」

徳子はさして不機嫌ではない様に首を振った。
冷たい独裁者、怒れる獅子のようと恐れられる祖母は千晴にだけは蜂蜜のように甘いのだ。

千晴は祖母に蠱惑的な目配せを送り、尋ねた。
「…大お祖母様は?
なぜなのですか?」
「なぜとは?」
「随分あっさりと紗耶ちゃんを許されて…」

…祖母は裏切り者には厳しい。
それらの者を決して許さない。
彼らに冷酷非情な制裁を加えてきたのを、幼い頃から千晴は側で見聞きしてきたのだ。

…ふっと、猛禽類に似た瞳が緩む。
「…ああ…。
あの娘…意外に骨があったわね。
私に短刀を向けられても、怯えなかったわ。
それから政彦さんの覚悟が見えたのと…あとは…」

…そうね…
と、再び窓の外に目を転じた。

…夜半過ぎ、冷たい雨は今年初めての雪に変わり始めていた。

「…少し、羨ましかったのかもしれないわね…」

徳子の囁きは、その初雪にも似て、密やかだった。
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