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異邦人の庭 〜secret garden〜
第3章 コンテ・ド・シャンボールの想い人
「ここで待っててくだせえよ。紗耶嬢ちゃん。
…いやあ、今夜は本当に嬉しい夜だ!
紗耶嬢ちゃんが若様のお嫁様になるなんて!
こんなに嬉しいことはねえ!
これから儂と一緒にいろんな薔薇を育てられますねえ…。
そうやそうや、お祝いの薔薇の花束を作ってきますんで、ここにいてくだせえよ」
…そう言って庭師の森野は陽気に笑いながら、紗耶を温室の片隅…コンテ・ド・シャンボールの薔薇の植え込み前のベンチに残していそいそと姿を消した。
紗耶は先ほどの興奮冷めやらぬまま、この温室に連れて来られたので、半ばぼんやりと辺りを見渡した。
…薔薇園の温室だわ…。
真冬だというのに、マダム・フィガロ、マリア・テレジア、ミス・アリス、そして、木香薔薇と様々な薔薇が咲き乱れている様は…まるで地上の楽園だ。
温度も春のように温かい。
ここは、ロザリアンの徳子が一年中大好きな薔薇たちをいつでも愛でたいという希望によって作られた薔薇専用の温室だ。
特に、高遠家の印であるコンテ・ド・シャンボールは常に美しく咲いているように徹底管理され、その麗しさと妙なる薫りを誇っていた。
紗耶は髪に挿された薔薇に触れる。
天鵞絨のような花弁からダマスクローズの薫りがふわりと漂い、千晴を想い出し、胸が甘く疼く。
…私…本当に千晴お兄ちゃまの花嫁様になれるのかしら…。
たった数時間で世界が変わってしまったような衝撃であった。
…今でも信じられないけれど…。
でも、千晴お兄ちゃまは確かに仰った。
『僕の花嫁は紗耶ちゃんしか考えられない』と…。
…あのお言葉を、信じていいのよね…?
まだ熱く火照る頬を両手で抑える。
…と、不意に奥のドアが慌ただしく開く音がした。
はっと振り返ると同時に聴こえたのは…。
「待ってください、紫織さん」
…千晴の声と…
「どういうおつもりなの?千晴さん。
紗耶を花嫁に選ぶなど…。
貴方…本当に紗耶を愛してくださっているのよね?」
…紫織の声であった…。
紗耶は素早くコンテ・ド・シャンボールの茂みの奥に身を隠す。
「ええ、もちろん。紗耶ちゃんはとても可愛いですよ。
だって貴女の娘ですからね…。
…ああ、僕はついに貴女を手に入れられたのだ…!」
…恍惚としたような声…
そして…
…薔薇の花影から垣間見てしまったのは、紫織を抱き竦める千晴の姿であった。
…いやあ、今夜は本当に嬉しい夜だ!
紗耶嬢ちゃんが若様のお嫁様になるなんて!
こんなに嬉しいことはねえ!
これから儂と一緒にいろんな薔薇を育てられますねえ…。
そうやそうや、お祝いの薔薇の花束を作ってきますんで、ここにいてくだせえよ」
…そう言って庭師の森野は陽気に笑いながら、紗耶を温室の片隅…コンテ・ド・シャンボールの薔薇の植え込み前のベンチに残していそいそと姿を消した。
紗耶は先ほどの興奮冷めやらぬまま、この温室に連れて来られたので、半ばぼんやりと辺りを見渡した。
…薔薇園の温室だわ…。
真冬だというのに、マダム・フィガロ、マリア・テレジア、ミス・アリス、そして、木香薔薇と様々な薔薇が咲き乱れている様は…まるで地上の楽園だ。
温度も春のように温かい。
ここは、ロザリアンの徳子が一年中大好きな薔薇たちをいつでも愛でたいという希望によって作られた薔薇専用の温室だ。
特に、高遠家の印であるコンテ・ド・シャンボールは常に美しく咲いているように徹底管理され、その麗しさと妙なる薫りを誇っていた。
紗耶は髪に挿された薔薇に触れる。
天鵞絨のような花弁からダマスクローズの薫りがふわりと漂い、千晴を想い出し、胸が甘く疼く。
…私…本当に千晴お兄ちゃまの花嫁様になれるのかしら…。
たった数時間で世界が変わってしまったような衝撃であった。
…今でも信じられないけれど…。
でも、千晴お兄ちゃまは確かに仰った。
『僕の花嫁は紗耶ちゃんしか考えられない』と…。
…あのお言葉を、信じていいのよね…?
まだ熱く火照る頬を両手で抑える。
…と、不意に奥のドアが慌ただしく開く音がした。
はっと振り返ると同時に聴こえたのは…。
「待ってください、紫織さん」
…千晴の声と…
「どういうおつもりなの?千晴さん。
紗耶を花嫁に選ぶなど…。
貴方…本当に紗耶を愛してくださっているのよね?」
…紫織の声であった…。
紗耶は素早くコンテ・ド・シャンボールの茂みの奥に身を隠す。
「ええ、もちろん。紗耶ちゃんはとても可愛いですよ。
だって貴女の娘ですからね…。
…ああ、僕はついに貴女を手に入れられたのだ…!」
…恍惚としたような声…
そして…
…薔薇の花影から垣間見てしまったのは、紫織を抱き竦める千晴の姿であった。