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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ
…その父が今、紗耶にすらりとした背中を見せ、窓辺に佇んでいる。

「…お父様…私…」

話し始めるのを、政彦がさりげなく遮り、静かに口を開く。

「…テルさんが淹れてくれたココアを飲みなさい。
寒かっただろう…」

眼差しで促す。

小さなテーブルの上に、温かそうな湯気が立つココアのカップを見つける。
カップは紗耶のお気に入りのハマースレイのヴィクトリアン・バイオレットだ。

…紗耶が政彦に連れられ帰宅した時、出迎えてくれたテルの表情が胸に過ぎる。

『…紗耶お嬢様…』

眼を赤く泣き腫らし、その一言だけを漏らすと白いエプロンに貌を埋めてしまった。
きっと何もかも、聴いているのだろう。

…本来だったら紗耶の婚約式のあとの帰宅だ。
感激屋のテルは、どんなに喜んでくれたか分からない。

…私は、どれだけ多くのひとたちを悲しませているのだろう…。

湯気の立つココアを見つめながら、紗耶の胸は酷く痛んだ。
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