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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ

「…紗耶!」
眉を顰める父の手を、両手で握りしめる。
「お父様…。
もし、私を大学に通わせてくださるなら、授業料は自分で払います。
私、自立して自活します。
働きながら大学に通います」
政彦が絶句した。
「働きながら?」
「ええ。
サークルにはね、奨学金をもらいながら、住み込みで新聞配達したり、アルバイトを掛け持ちしながら大学に通っている先輩たちがたくさんいるの。
その先輩たちに色々相談してみるわ。
…柿の木坂のお祖父様のおうちに住んだら、勘当とは言えないわ。
お父様が嘘をついたことになるもの」
徳子の厳しさと容赦のなさはこの数ヶ月、側で接していて身に染みるほど理解していた。
徳子は約束を違えた者を決して許さない。
それが一族の者ならば尚更だ。
歴史ある高遠家を、そして一族を統べる女帝として、冷酷なほどに厳格でなければならなかった徳子を、紗耶は嫌いではなかった。
だから、政彦に非が及ぶことだけは避けたかった。
政彦はため息を吐いた。
「…紗耶。
大学の授業料と生活費を稼ぐことは並大抵のことではないのだよ。
私も経済的に恵まれて育ったから、その苦労を肌で知っている訳ではない。
けれど、学生時代の友人に苦学生はいた。
彼らは本当に寝る間を惜しんで働いて、勉強をしていた。
働いてお金を得るためには、時には嫌な思いもしなくてはならない。
世間知らずの紗耶に、それが出来るかな?」
…確かにその通りだ。
自分は世間知らずで、苦労知らずだ。
そして、常に誰かに庇われて生きてきた。
政彦に、紫織に、千晴…。
…けれど、もうそこから卒業しなくてはならないのだ。
美しい夢物語のような庭園から自らの足で踏み出し、扉を開け、生きていかなくてはならないのだ。
…藤木を探し当て、再び会うために…
紗耶は瞬きもせずに、父を見つめた。
そうして、誓いを立てるように告げた。
「出来るわ。
…ううん。出来るようになってみせるわ」
「…紗耶…」
やがて、政彦が紗耶をそっと抱きしめた。
言葉はなかった。
…声を押し殺して、彼は泣いているようだった。
紗耶はぎゅっと父を抱き返した。
「…今まで本当にありがとう、お父様。
私、強くなるわ。
それから…きっと幸せになる」
それは、父への心からの感謝の言葉だった。
眉を顰める父の手を、両手で握りしめる。
「お父様…。
もし、私を大学に通わせてくださるなら、授業料は自分で払います。
私、自立して自活します。
働きながら大学に通います」
政彦が絶句した。
「働きながら?」
「ええ。
サークルにはね、奨学金をもらいながら、住み込みで新聞配達したり、アルバイトを掛け持ちしながら大学に通っている先輩たちがたくさんいるの。
その先輩たちに色々相談してみるわ。
…柿の木坂のお祖父様のおうちに住んだら、勘当とは言えないわ。
お父様が嘘をついたことになるもの」
徳子の厳しさと容赦のなさはこの数ヶ月、側で接していて身に染みるほど理解していた。
徳子は約束を違えた者を決して許さない。
それが一族の者ならば尚更だ。
歴史ある高遠家を、そして一族を統べる女帝として、冷酷なほどに厳格でなければならなかった徳子を、紗耶は嫌いではなかった。
だから、政彦に非が及ぶことだけは避けたかった。
政彦はため息を吐いた。
「…紗耶。
大学の授業料と生活費を稼ぐことは並大抵のことではないのだよ。
私も経済的に恵まれて育ったから、その苦労を肌で知っている訳ではない。
けれど、学生時代の友人に苦学生はいた。
彼らは本当に寝る間を惜しんで働いて、勉強をしていた。
働いてお金を得るためには、時には嫌な思いもしなくてはならない。
世間知らずの紗耶に、それが出来るかな?」
…確かにその通りだ。
自分は世間知らずで、苦労知らずだ。
そして、常に誰かに庇われて生きてきた。
政彦に、紫織に、千晴…。
…けれど、もうそこから卒業しなくてはならないのだ。
美しい夢物語のような庭園から自らの足で踏み出し、扉を開け、生きていかなくてはならないのだ。
…藤木を探し当て、再び会うために…
紗耶は瞬きもせずに、父を見つめた。
そうして、誓いを立てるように告げた。
「出来るわ。
…ううん。出来るようになってみせるわ」
「…紗耶…」
やがて、政彦が紗耶をそっと抱きしめた。
言葉はなかった。
…声を押し殺して、彼は泣いているようだった。
紗耶はぎゅっと父を抱き返した。
「…今まで本当にありがとう、お父様。
私、強くなるわ。
それから…きっと幸せになる」
それは、父への心からの感謝の言葉だった。

