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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ

「…紗耶ちゃん…」
紫織が息を呑んだ。
「あ、あたしそろそろバイトの時間だ。
お母様、どうぞごゆっくり…」
アネゴがさりげなく席を外す。
居間に二人きりになり、紫織がぽつりと口を開いた。
「…決心は、変わらないのね…。
紗耶ちゃん…」
紫織と面と向かい合い、藤木について語り合うのは初めてのことだった。
紗耶が家を出る前後は、あまりに慌ただしく、また政彦の手前、藤木の話題を持ち出すことは憚られたからだ。
「ええ、お母様」
頷いたのち紗耶は紫織の白い手を取り、ぎゅっと握りしめた。
「ごめんなさい。お母様。
お母様を苦しませていること…お父様を悲しませていること…よくわかっているの。
私の恋が、決して祝福されないことも…。
でも…それでも、諦められないの。
もう一度、先生に会えるまでは、諦めたくないの」
紫織はその美しい瞳を見張った。
…そうして小さく息を吐くと、苦しげな…けれどどこか懐かしむような…複雑な表情で語り出したのだ。
「…藤木先生…。
そう…たしかにとても美しくて魅力的なひとだけれど…捉え所のないひとだったわ…」
「…お母様…」
母の口から、藤木について語られるのは、初めてのことだ。
「…あの頃の私は…今思えばまだまだ子どもで…先生に夢中だった…。
…それはもう、狂おしいくらいに…。
…あの美しい榛色の瞳に…まるで魅入られてしまったかのように…」
…かつて二人が、激しく愛し合ったその熱や色彩が、あえかな薫りとともに甦る幻想すら覚え、紗耶は思わず息苦しくなる。
紫織が息を呑んだ。
「あ、あたしそろそろバイトの時間だ。
お母様、どうぞごゆっくり…」
アネゴがさりげなく席を外す。
居間に二人きりになり、紫織がぽつりと口を開いた。
「…決心は、変わらないのね…。
紗耶ちゃん…」
紫織と面と向かい合い、藤木について語り合うのは初めてのことだった。
紗耶が家を出る前後は、あまりに慌ただしく、また政彦の手前、藤木の話題を持ち出すことは憚られたからだ。
「ええ、お母様」
頷いたのち紗耶は紫織の白い手を取り、ぎゅっと握りしめた。
「ごめんなさい。お母様。
お母様を苦しませていること…お父様を悲しませていること…よくわかっているの。
私の恋が、決して祝福されないことも…。
でも…それでも、諦められないの。
もう一度、先生に会えるまでは、諦めたくないの」
紫織はその美しい瞳を見張った。
…そうして小さく息を吐くと、苦しげな…けれどどこか懐かしむような…複雑な表情で語り出したのだ。
「…藤木先生…。
そう…たしかにとても美しくて魅力的なひとだけれど…捉え所のないひとだったわ…」
「…お母様…」
母の口から、藤木について語られるのは、初めてのことだ。
「…あの頃の私は…今思えばまだまだ子どもで…先生に夢中だった…。
…それはもう、狂おしいくらいに…。
…あの美しい榛色の瞳に…まるで魅入られてしまったかのように…」
…かつて二人が、激しく愛し合ったその熱や色彩が、あえかな薫りとともに甦る幻想すら覚え、紗耶は思わず息苦しくなる。

