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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ
「…お兄ちゃま…!」

紗耶はその封筒を強く握りしめた。
…ここに、先生の居所が…。
しばらくじっと眼を閉じた。

…やがて、そっと長い睫毛を震わせながら瞼を開いた。
そうして千晴を見上げ、心を込めて告げる。

「…ありがとう。千晴お兄ちゃま…」

…でも…

と、紗耶は白い封筒を丁寧に千晴に返した。

「私、これは受け取れません」

千晴が驚いたように眼を見張った。

「なぜ?
彼はここにいるのだよ。
紗耶ちゃんはずっと彼を探して来たんでしょう?
彼に逢いたいんでしょう?」

「逢いたいわ。すごく逢いたい」
今すぐ逢いたい。
何を犠牲にしてでも、逢いたい。

…でもね。

紗耶の瞳に、強い意志が宿る。

「お兄ちゃまの力を借りて藤木先生に逢っても、駄目なの。
紗耶が自分の力で先生を探し当てなければ意味がないの。
…私が成長しなくては。
人の力を頼りにするのではなく、自分の力で先生に辿り着かなくては。
…もう、誰かに助けてもらうのは終わりにしなくては。
そうじゃなければ、私はいつまでも大人になれないわ」

「…紗耶ちゃん…!」

紗耶はその黒眼勝ちな瞳を潤ませて微笑んだ。

「でもお兄ちゃまのお気持ちは本当に嬉しい。
こんな私を見捨てないで、手を差し伸べてくださって…。
…お兄ちゃまはやっぱり私の清く正しく美しい夢の王子様だわ」

「…紗耶ちゃん…!」
千晴が感に耐えたように小さく叫び、思わず紗耶を抱き寄せた。
…まるで親愛なる兄が愛おしい妹に与えるような抱擁をしながら、しみじみと囁いた。

「…素敵なレディになったね、紗耶ちゃん」

…なんだか、また君に恋してしまいそうだよ…。
と、やや冗談めかして切なげに笑う。

そうして、紗耶の白い額に祈りを込めてキスを落とした。

「…分かったよ。紗耶ちゃん。
君の力だけで彼に辿り着いてごらん。
…その時にきっと、君の愛は成就するだろう…」

「…千晴お兄ちゃま…」
紗耶はその逞しい背中を強く抱きしめ返す。

…ありがとう…。お兄ちゃま…。

千晴の言葉は、愛のまじないとなるのだった。


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