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異邦人の庭 〜secret garden〜
第16章 異邦人の庭 〜secret rose garden〜
政彦は、諦めたようにため息を吐き、千晴を諫める。

「…千晴…お前はまったく…」
…けれど、政彦は続く言葉を口にはしなかった。

彼は分かっていた。
千晴が…この高遠一族を統べる若き当主が多感な少年時代からいかに紫織に惹かれ、恋をし、憧れ続けていたかを…。
ずっと、知っていたのだ。

けれど、政彦はそれを口にすることも咎めることもなかった。

なぜなら、千晴の深い孤独に気づいたからだ。

千晴は生まれながらにして地位も名誉も名声も約束され、加えて容姿端麗、頭脳明晰の少年だった。
その少年の家庭教師をしながら政彦は、密かに感心していた。
その美貌、その優雅さ、そのオーラ…。
世の中には、完璧な人間がいるものだと。

何もかもに恵まれた子ども…。
それが千晴だった。

…けれどそれは実は違っていたと政彦が気づいたのは、紫織を婚約者として千晴に紹介した日のことだ。

千晴は、ただひとつの愛に飢えていたのだ。
…亡き母の愛。
そうして、その母に生き写しの紫織に恋をした。
その美しい純粋な鳶色の瞳で…切ないほどの一途な眼差しで…。

…そう、ずっと気づいていたのだ。
気づいていて、気づかぬふりをしていた。
少年の、紫織に捧げられる愛は曇りなく、穢れなく、美しかったからだ。
…それは、今も…。

「まあ、いい。
…それは悪いことじゃない…」
独り言のように呟き、テーブルから立ち上がる。

「…理人。
お父ちゃまにカエルさんの池を案内しておくれ」
にこやかな笑みを向けると、理人が眼を輝かせた。

「お父ちゃま!こっちこっち!」
可愛らしい小さな手が手招きする方に、政彦はゆっくりと歩き出した。









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