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異邦人の庭 〜secret garden〜
第17章 secret garden 〜永遠の庭〜
「…アキラとツキシロはフランスに亡命のような形で逃れて来たらしい。
私はまだ子どもでね、その時は詳しいいきさつは知らなかった。
けれど、私が大人になった頃、アキラが話してくれたのだ。
ジャポンでツキシロは反政府運動の活動家と誤解され、蛇のように執念深い特高に執拗に追われ、男爵家の子息のアキラとここ、ニースに逃れついたのだ…とね」
「…そうだったのですか…。
大変なご苦労があったのですね…」
…大戦前の日本、当時は禁忌の同性愛、身分違いの恋、政治犯と濡れ衣を着せられ亡命…。
どれも今では考えられない…映画か小説のようなドラマチックな恋だ。
「…そう。
けれど、彼らはいつも幸せそうだった。
彼らはいつも一緒だった。
喧嘩しているところなど、一度も見たことはなかった。
仲睦まじく、お互いを尊重し合い、信頼し合い…。
理想のカップルだった。
そして彼らの日本的な美しく優美な洗練された容姿は街の人々の憧憬でもあった」
ミシェルはふっと笑った。
「…けれど私はアキラに恋をしていたからね。
ツキシロにいつもヤキモチを焼いていた」
…だから、ある日私は挑戦的に彼に言ったんだ。
ミシェルは昔を思い起こすようにゆっくりと語り始めた。
「…アキラは僕がいつかお嫁さんにするからね…!と」
藤木は思わず好意的に小さく笑った。
幼いミシェルの愛らしさ、子供らしい真摯な心意気が伝わったからだ。
「…すると、ツキシロは優しく微笑みながら私に言ったんだ。
『ミシェル。お前に頼んでもいいか?
私はきっと暁様より先に死ぬだろう。
自分が死ぬのは怖くはないが、遺された暁様のことだけが気掛かりなのだ。
暁様が寂しくないように、お前が守ってくれるか?』…とね」
藤木は息を呑んだ。
月城という男の暁への愛が熱く激しく…そして神聖に感じられたからだ。
「…その話を、幼かった私はそのまま無邪気にアキラに伝えた。
…するとアキラは私の前で絶句した。
そうして、その美しい瞳からはらはらと涙を溢したのだよ…。
…やがて彼はこう言ったんだ。
『ミシェル。僕はね、ツキシロといっしょに死にたいんだ…。
それが唯一の願いなんだよ…』と…」
…そんなにも深く、濃く、愛し合っていた二人だったのだよ…。
ミシェルの言葉が、まるで温かな源泉の湯のように、ひたひたと藤木の胸を満たしていった…。
私はまだ子どもでね、その時は詳しいいきさつは知らなかった。
けれど、私が大人になった頃、アキラが話してくれたのだ。
ジャポンでツキシロは反政府運動の活動家と誤解され、蛇のように執念深い特高に執拗に追われ、男爵家の子息のアキラとここ、ニースに逃れついたのだ…とね」
「…そうだったのですか…。
大変なご苦労があったのですね…」
…大戦前の日本、当時は禁忌の同性愛、身分違いの恋、政治犯と濡れ衣を着せられ亡命…。
どれも今では考えられない…映画か小説のようなドラマチックな恋だ。
「…そう。
けれど、彼らはいつも幸せそうだった。
彼らはいつも一緒だった。
喧嘩しているところなど、一度も見たことはなかった。
仲睦まじく、お互いを尊重し合い、信頼し合い…。
理想のカップルだった。
そして彼らの日本的な美しく優美な洗練された容姿は街の人々の憧憬でもあった」
ミシェルはふっと笑った。
「…けれど私はアキラに恋をしていたからね。
ツキシロにいつもヤキモチを焼いていた」
…だから、ある日私は挑戦的に彼に言ったんだ。
ミシェルは昔を思い起こすようにゆっくりと語り始めた。
「…アキラは僕がいつかお嫁さんにするからね…!と」
藤木は思わず好意的に小さく笑った。
幼いミシェルの愛らしさ、子供らしい真摯な心意気が伝わったからだ。
「…すると、ツキシロは優しく微笑みながら私に言ったんだ。
『ミシェル。お前に頼んでもいいか?
私はきっと暁様より先に死ぬだろう。
自分が死ぬのは怖くはないが、遺された暁様のことだけが気掛かりなのだ。
暁様が寂しくないように、お前が守ってくれるか?』…とね」
藤木は息を呑んだ。
月城という男の暁への愛が熱く激しく…そして神聖に感じられたからだ。
「…その話を、幼かった私はそのまま無邪気にアキラに伝えた。
…するとアキラは私の前で絶句した。
そうして、その美しい瞳からはらはらと涙を溢したのだよ…。
…やがて彼はこう言ったんだ。
『ミシェル。僕はね、ツキシロといっしょに死にたいんだ…。
それが唯一の願いなんだよ…』と…」
…そんなにも深く、濃く、愛し合っていた二人だったのだよ…。
ミシェルの言葉が、まるで温かな源泉の湯のように、ひたひたと藤木の胸を満たしていった…。