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異邦人の庭 〜secret garden〜
第17章 secret garden 〜永遠の庭〜
「…大戦後の彼らの生活は穏やかで幸せなものだったと思う。
大戦が終わり、ようやく日本と行き来も出来る様になった。
待ちかねたように日本からアキラの兄夫婦がやってきた。
…アキラの兄はバロン(男爵)でね。
立派な紳士だったよ。
再会の場面にたまたま私は立ち合ったのだが…。
全く、ツキシロとどちらが恋人か分からないほどに、アキラを熱烈に…愛おしげに抱きしめていたよ。
彼は随分とアキラを溺愛しているように見えた。
…バロンは戦後、華族制度が廃止され財閥も解体され、苦労したと思うが、新しい事業を始めて成功しているようだった。
バロンの妻のバロネス(男爵夫人)も日本人離れした華やかな美しいひとだった。
…彼女はこの家の元の持ち主のフランスでも有名な画家と…若い頃ステキなラブアフェアがあったらしいが…まあ、それもここフランスでは粋な話しだ。
何しろフランスはAmourの国だからね」

ミシェルは色っぽいウィンクをした。
…ミシェルは若い頃はニースきっての伊達男と呼び声が高かったらしい。
花祭りで有名なニースで、いくつものフラワーショップを経営し、フラワーアーティストとしての名声も高く、また、花の栽培にも長けていた。
大層モテていたらしいが、彼は長年連れそう妻に一途の愛を捧げ続けているのが、実に微笑ましかった。

「…彼らは長生きはされたのですか?」
藤木は遠慮勝ちに聞いてみる。
もはや、二人のことは他人ごととは思えなかったからだ。

ミシェルの海の色の瞳に微かな哀しみが宿った。
「…長生きは…しなかったな…。
アキラは五十才になったばかり…だったかな…。
…けれど、恐ろしく歳を取らないひとだった。
どこから見ても、三十になったかならないか…にしか見えなかった。
…実に瑞々しく麗しかった…。
ツキシロもそうだった。
精悍で若々しく、研ぎ澄まされた美貌は錆びつかなかった。
…そういえば君もそうだね。プロフェッサー。
ジャポネーゼは何か不老の魔法でも使っているのかね?」
冗談めかして笑い…やがて、静かな表情で語り始めた。

「…あの年は、世界中でタチの悪い流行病が流行してね。
ここニースも例外ではなかった。
次々に重篤に陥るものが続出したよ。
まだ有効な薬もワクチンもなかった時代だ…。
…アキラは元々あまり身体が丈夫ではなくてね…。
とうとう彼も病の床に着いてしまったんだ…」

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