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異邦人の庭 〜secret garden〜
第17章 secret garden 〜永遠の庭〜
「待っていたんだよ…!
遅かったね、月城」
嬉しそうに月城に駆け寄るその姿は、まるで付き合い始めの恋人同士のようだ。

「良い平目が釣れたので、パイを焼いてみました。
今日は大勢集まられるそうですね。
フィッシュパイは百合子様がお好きと伺っておりましたから」

…月城は白いシャツに黒いスラックス、生成りのギャルソンエプロンという服装は控えめで質素だが、清潔に品良く整えられていて、侵し難い風格すら感じられた。
そこに前職の完璧な執事の片鱗が窺えるようだった。
船に乗るようになってから伸ばしているという艶やかな黒髪はきちりと後ろで麻紐で束ねられている。
滑らかな小麦色の肌、端正に整った目鼻立ちはかつてより野性味を帯びていたが、相変わらず怜悧で美しい。
…騎士のような優雅なる海賊…
風間が密かに名付けている月城は、恐らく六十近いはずだが、どう見ても四十前後にしか見えない若々しさだ。
漁師仕事で日夜鍛え上げられている身体は逞しくしなやかに筋肉質で、いささかの衰えもくすみも見られない。

…全く、この二人は人魚から不老の媚薬でも貰ったのではないか。
風間は本気でそう考えたほどだ。

幸いにして風間は自分の容姿に劣等感を持ったことは一度もない。
乗馬とテニスで鍛えている身体は、四十代の男には見えないほど引き締まり、若々しい筈だ。
女性たちからの絶大な人気も相変わらずなので、男性としての魅力がある自負も少なからず持っている。

けれど、月城の前に立つと、男としての自尊心が微かに揺らぐのだ。
…この内面に底知れぬ強さと凄みを秘めた美しく、未だにどこか神秘性を秘めた計り知れぬ大きさを湛えた男に、風間は一生敵わないと思い知らされるからだ。

…そして何より…。

「僕も大好きだよ。
…というか、月城が作るものはなんでも好きだ。
どれもすごく美味しいもの。
百合子さん、きっと喜んでくださるよ」
「…暁様…。
ありがとうございます」

…暁を、こんなにも無邪気な蕩けるような笑顔にさせる男に、密かに嫉妬せざるを得ないのだ…。

「…全く…。
相変わらずお熱いことで…。
君の前に出ると、俺はただの引き立て役だと思い知らされるよ。
月城さん」

風間は大袈裟にため息を吐きながら、二人の前にゆっくりと歩み寄った。
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