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異邦人の庭 〜secret garden〜
第17章 secret garden 〜永遠の庭〜
「…紗耶…きみ…」
喘ぐように口を開く藤木に、紗耶は叫んだ。

「…た、大変だったんだから!
ここまで来るのに!」
愛の言葉が叫ばれるかと思いきや、いきなり飛び出したのは文句だった。

「…へ?」
だから思わず間抜けな声が出た。

「やっとニースに来られたと思ったら先生は留守だし!」

「そうなのよねえ…。
このお嬢さん、プロフェッサーがグラースに旅立った日の午後いらしてねえ…。
私たちのペンションで待っていらっしゃいと言ったのだけれど、早くプロフェッサーに会いたいからと後を追いかけてグラースに…」
のんびりと瑠璃子が説明する。

「…そうだったの…」
胸が甘狂おしくなるような愛おしさが込み上げる。
ゆっくりと紗耶の前に歩み寄る。

「…グラースなんて調べてなかったし。
グラースの駅でひったくりにあっちゃって、パスポートから財布から全部盗まれて…。
その上、トランクも置き引きにあって…」
べそをかきながら、紗耶が続ける。

「え⁈大丈夫だったの?」

「大丈夫じゃなかったわ。
仕方ないから領事館に駆け込んで…。
スマホだけは身につけていたから、とりあえず日本のお父様に送金をお願いして…。
お父様はすごく心配して、迎えにゆく!て大騒ぎになって、何とか宥めて…。
パスポートだけは奇跡的に出て来たのだけれど…。
肝心な先生とはすれ違いで全然会えないし。
本当に…大変だったんだから…!」

…さぞや大変だったに違いない。
紗耶の長く美しい黒髪は短くショートボブに変わっていた。
服装は洗いざらしの白いTシャツにブルーのデニム。
足元はかなりくたびれたNIKEのスニーカー。
背中に背負われているのはリュックだ。
藤木が知る、深窓のご令嬢を体現したような優雅で上品な服装や髪型とは程遠い姿だった。

「…紗耶…。
髪を切ったの?」
…目の前に立ち、その小さな貌を熱く覗き込む。

「…カットモデル…。
ホテル代が必要だったから…。
…あんまり見ないで…。
私、そばかすも浮いてひどい貌を…」
後退る紗耶を荒々しく引き寄せ、強く抱きすくめた。

「…紗耶…!」
「…せん…せ…」
驚いた紗耶の耳元に、振り絞るように告げる。

「…愛している…!紗耶…!
会いたかった…!」

「ブラボー!プロフェッサー!」
「なんて素敵!」
ミシェルと瑠璃子のはしゃいだような歓声が、遠くから響いてきた。

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