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異邦人の庭 〜secret garden〜
第5章 ペニー・レーンの片想い
…あの夕べ、千晴は紗耶を部屋まで送ると、その言葉を繰り返した。
「…ごめんね、紗耶ちゃん。
もう、君を怖がらせるようなことはしないよ…」
…だから…もう一度、抱きしめてもいい…?
遠慮勝ちに尋ねられ、紗耶は小さく頷いた。
「…ああ…紗耶ちゃん…」
強く抱きしめられ、筋肉質な引き締まった胸元に貌を埋める…。
…どきどきと高鳴る心臓の音を、どうか聞かれませんように…と、そっと祈る。
千晴は長い抱擁を解くと、改めて詫びた。
「僕は、紗耶ちゃんに嫌われるのが何よりも辛いんだ」
…何かに怯えるように告げると、紗耶の頰におずおずと指を伸ばす。
「…触ってもいい?」
子どもが母親に許可を求めるような言葉に、紗耶は頷いた。
…千晴に触れられるのは、少しも嫌ではない。
それどころか、そのひんやりとした指先から甘美な痺れが広がり…鼓動が更に早くなるほどだ。
「…僕を好き…て、本当?」
…美しい鳶色の瞳に真っ直ぐに見つめられる。
「…ええ…」
「…どれくらい、好き…?」
縋るように尋ねられ…紗耶は恥じらいながら答える。
「…千晴お兄ちゃまが誰よりも一番好き…。
…だって…お兄ちゃまは、紗耶の初恋だから…」
…だから、千晴の花嫁になりたいと思ったのだ。
千晴が紫織を愛していることを知った上で…。
…ああ…と、千晴は安堵のため息を漏らした。
「…嬉しいよ、紗耶ちゃん…。
…ありがとう…。
…僕も、君が一番好きだ…。大好きだよ…。
…愛している…紗耶ちゃん…」
柔らかな、安心感しか与えない抱擁を繰り返し、唄うように囁かれた。
その長く美しい指が、紗耶の髪を愛おし気に撫でる。
…けれど、紗耶は知っているのだ。
千晴が本当に愛しているのは、紫織だと…。
紫織への諦められない恋の形代に、紗耶を求め…愛しているのだと…。
それを知りながら、尚も千晴を愛する自分を、紗耶は哀しいと改めて静かに感じ入るのだった。
「…ごめんね、紗耶ちゃん。
もう、君を怖がらせるようなことはしないよ…」
…だから…もう一度、抱きしめてもいい…?
遠慮勝ちに尋ねられ、紗耶は小さく頷いた。
「…ああ…紗耶ちゃん…」
強く抱きしめられ、筋肉質な引き締まった胸元に貌を埋める…。
…どきどきと高鳴る心臓の音を、どうか聞かれませんように…と、そっと祈る。
千晴は長い抱擁を解くと、改めて詫びた。
「僕は、紗耶ちゃんに嫌われるのが何よりも辛いんだ」
…何かに怯えるように告げると、紗耶の頰におずおずと指を伸ばす。
「…触ってもいい?」
子どもが母親に許可を求めるような言葉に、紗耶は頷いた。
…千晴に触れられるのは、少しも嫌ではない。
それどころか、そのひんやりとした指先から甘美な痺れが広がり…鼓動が更に早くなるほどだ。
「…僕を好き…て、本当?」
…美しい鳶色の瞳に真っ直ぐに見つめられる。
「…ええ…」
「…どれくらい、好き…?」
縋るように尋ねられ…紗耶は恥じらいながら答える。
「…千晴お兄ちゃまが誰よりも一番好き…。
…だって…お兄ちゃまは、紗耶の初恋だから…」
…だから、千晴の花嫁になりたいと思ったのだ。
千晴が紫織を愛していることを知った上で…。
…ああ…と、千晴は安堵のため息を漏らした。
「…嬉しいよ、紗耶ちゃん…。
…ありがとう…。
…僕も、君が一番好きだ…。大好きだよ…。
…愛している…紗耶ちゃん…」
柔らかな、安心感しか与えない抱擁を繰り返し、唄うように囁かれた。
その長く美しい指が、紗耶の髪を愛おし気に撫でる。
…けれど、紗耶は知っているのだ。
千晴が本当に愛しているのは、紫織だと…。
紫織への諦められない恋の形代に、紗耶を求め…愛しているのだと…。
それを知りながら、尚も千晴を愛する自分を、紗耶は哀しいと改めて静かに感じ入るのだった。