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異邦人の庭 〜secret garden〜
第5章 ペニー・レーンの片想い
『紗耶ちゃん?帰りが遅いから心配していたんだよ。
今、どこにいるの?』
…受話器越しの美しく滑らかな千晴の声にやや焦りの色が感じられる。

…どうしよう…!
千晴お兄ちゃまに連絡するのを忘れていた…!

紗耶は小声で謝る。
「…あの…連絡しなくてごめんなさい。千晴お兄ちゃま。
今、サークルの方々が歓迎会を開いてくださって…居酒屋さんにいるの」
『居酒屋?』
千晴の声が不意に尖る。
『お酒、呑んでいないよね?』
「はい。呑んでいません」
『絶対に呑んでは駄目だよ。
紗耶ちゃんは未成年だし…酔ったら危険だからね』
「…は、はい。呑みません」
しゅんとした様子が電話越しでも伝わったのだろう。
不意に柔らかな声に変わった。
『ごめんね、きつく言ってしまって。
せっかくの歓迎会だから楽しんでおいで』
…でも…と、怜悧な声が続ける。
『迎えに行くからね。終わる頃、電話して』

慌てて紗耶は首を振る。
「そんな…いいです。
電車で…いえ、タクシーで帰りますから…」
『駄目だよ。僕が迎えに行く。
店の名前と場所をメールしておいて』
「千晴お兄ちゃま…」
『いいね。お酒は呑まないで。約束だよ。
…それから…男の子たちには気をつけて』

…熱の篭った低音の美声が、紗耶の鼓膜に甘い蜜のように絡みつく…。
『僕の可愛い紗耶ちゃん…君にもしものことがあったら、僕はどうにかなってしまうからね。
じゃあ、連絡待っているから』
「あの…お兄ちゃま…」
…電話は、一方的に切れた…。




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