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飛べないあの子
第2章 揺らぐ影
「はいはい、そこまで」

突然声をかけられ、橋本も凛もビク!っと身体を震わせた。
白いシャツに黒いパンツ姿の慧がスマホを振りながら近づいてきた。

「橋本くんだっけ?だめだよ、そんな風に先生を脅したら」
「なんだお前・・・・・・・・・・」
「今の録音したからね。君の親御さんに知られたくなかったら、今すぐ中谷先生の手を離して、今後二度とこういうことをしないと誓いなさい」
「・・・・・・・・」

橋本はギ!と慧を睨むと、凛の手を投げ捨てるように離して走って逃げた。
凛は体が震えるのを止めるために両腕で自分を抱きしめた。

「中谷先生、大丈夫ですか?」

慧が凛の顔を覗き込んで尋ねた。

「・・・・・・・・はい。大丈夫です」
「彼、ここ最近雰囲気が怪しかったので、ちょっと後つけちゃいました。だめですよ。男子生徒と二人っきりになったりしたら」
「本当に、そうですね・・・・・・・。これから気をつけます」
「一応、校長に報告しておきますね」
「いえ・・・・・!私からします。西辻先生、お仕事に戻ってください」

凛は頭を下げるとその場を立ち去ろうとした。
咄嗟に慧が凛の腕を掴む。

「待ってください。まだ言われてませんよ」
「え?」
「助けてもらったら‘ありがとう’でしょう?」
「あ・・・・・・・・」

慧は微笑んでいたが、やっぱり目が笑っていなかった。

「ありがとうございました」
「何かお礼、してください」

まさかお礼を催促されると思わず、凛は面食らった。

「お礼って?」
「仕事終わったら食事に行きましょう」

凛は何を言っているのだと眉を寄せた。

「それはできません」
「なぜ?」
「なぜって・・・・・・・。行きたくないからです」
「また傷つくことをサラっと言いますね」

慧は苦笑いしてスマホを持ちあげて言った。

「さっきの音声。いくらでも編集できちゃいますけど、いいですか?」
「・・・・・・・・どういう意味ですか?」
「あなたとあの橋本って生徒が恋人であるかのような会話に編集して拡散することが可能ですという話です」

凛の中で激しい怒りが芽生える。
この人は、こうやって自分の思い通りにいかないことが許せないのだ。
どんな手段を使ってもねじ伏せて、コントロールしたいのだ。
凛は奥歯をギリ・・・・・・と噛んだ。

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