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飛べないあの子
第2章 揺らぐ影
「・・・・・・・好きにしてください」
「え?」
「どうぞ、拡散でもなんでもしてください。私の代わりはいくらでもいますから」

凛は慧を睨んで言った。絶対に屈しないという強い気持ちだけだった。

「・・・・・・・まいったなぁ。冗談ですよ」

慧は表面的に笑った。

「本当に俺が嫌いなんですね。あなたの中では高校生の俺の印象しかないみたいだけど、もう8年も前の話だ。そもそも、あの頃俺とほとんど話したこともないでしょう?」
「昔のあなたではなく、私は今のあなたの行為に対して嫌悪感を抱いてます」
「本当にそうですか?あなたは初日から、昔の印象のまま俺を見てるじゃないですか。あんな昔の、周りに勝手に作られた印象を引きずられても困ります。俺にしてみたら初見の人に理不尽に嫌われてるわけですからね。良い気はしません」
「・・・・・・・・・」

慧の口から‘理不尽’という言葉が出てくると思わなかった。
凛は怒りを懸命に抑えた。

(この人と言い争っても意味ないわ。わかりあおうとするだけ無駄だもの)

凛の心がス・・・・・・と冷める。

「・・・・・・そうですね。失礼な態度を取って申し訳ありません。以後気を付けます。そして、先ほどは助けていただいてありがとうございました」

凛は全く心を込めずに、上辺だけのお礼を言って頭を下げた。
慧がクスクスと笑った。

「あなたが何を考えているかわかりますよ。‘これ以上話しても無駄だ。適当に謝っておこう’」
「・・・・・・・・・」
「ホント、俺と良く似てる」

慧はそう言って不敵な笑みを浮かべると去っていった。

(俺と良く似てる・・・・・・?)

凛の中で激しく抗議したいという気持ちが芽生えるが、慧が立ち去った瞬間にドッと疲れを感じて口を噤んだ。
こんなに様々な感情に揺さぶられる日はなかなかない。
凛はもう何も考えたくないと、目を閉じたのだった。



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