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飛べないあの子
第2章 揺らぐ影
先生できました、と目の前の女子生徒に言われてハッとする。
凛は慌てて回答に目をやった。

「えーと、うん、正解。じゃあ、次もやってみようか。この問題は、この滑車が固定されていなくて動くから・・・・・・」

女子生徒に説明しながらも意識が隣に向いてしまう。
凛は再び女子生徒が問題を解いている間、隣の会話を拾った。

「君のご両親の場合、それなりの大学じゃないと家を出てまで通わせてもらえないだろうけど・・・・・・。まあ、いわゆる旧帝大レベルならいいんじゃない?北海道、名古屋、京都、大阪、九州、あとは・・・・・東北か」
「親から離れて・・・・・・。考えたことなかった。家から通うしかないって決めつけてたから・・・・・・」
「反対はされるかもね。まあ、選択肢の一つとして考えてみたら?問題なのは、大学に行く場合親からの経済的援助が必要になるだろうから、自分の我儘ばかり通すわけにはいかないとこだね。親も納得して金を出してもらえるような選択をしなくちゃいけない」
「じゃあ、先生は親からお金をもらわらなくても生きていけるようになったから、東大を辞めたの?」
「まあ、そういうことだね」
「それまでは大人しく親の言うことを聞いて大学通って、ある日突然、俺はもう一人で生きていける、親の金はいらないから東大も辞めさせてもらうって言ったってこと?」
「そうそう。そんな感じ。めちゃくちゃキレてたけどね」
「そりゃそうだよ・・・・・・・。でも、それだと今までの分返せ、みたいにならない?」
「なったよ。だから高校からかかった教育費、倍にして返した。中学までは義務教育だから」
「すげー・・・・・・・」
「俺の家に関していえばだけど、親が子供をコントロールできるのは、経済的に支配しているからだと思ってたから。君も何でもかんでもイヤになったから放棄するんじゃなくて、自立するまではうまく立ち回ったらいい。何にせよ君次第だよ」

倉持は慧の言うことに触発されたようで、感動して感謝の言葉を述べると去っていった。
慧が立ちあがった時に、パーテーション越しに目が合う。
凛はじっと慧を見上げた。
慧は何の表情も浮かべず凛を見下ろしていた。
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