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飛べないあの子
第3章 届きそうな距離
6月になると夏期講習に向けて忙しくなってくる。常勤の凛はやることも多い。
夏期講習に向けて生徒と進路相談が増えるし、夏期講習の準備だけでなく生徒を集めるための広報業務もある。凛は残業続きの多忙な日々を送っていた。
慧とは飲みに行くまではなかったが、帰るタイミングが一緒になることもあったし、例のスーパーで顔を合わせることも何度かあった。

「中谷先生」

夏期講習が始まり、ようやく落ち着いてきたある日の昼休み。
昼ごはんを買いに行くために外を出たタイミングで慧に声をかけられた。

「西辻先生」
「なんで昨日の飲み会、来なかったんです?」
「あー・・・・・・。すみません、体調が悪くて・・・・・」
「・・・・・・・・」

慧が嘘をつくなという疑いの目で見ている。

「本当です。薬飲んで寝てました」

凛は信用させるために生理痛で、と言いたかったが、さすがにやめた。

「・・・・・そうですか。コンビニ行くんですか?」
「はい」
「じゃあ、一緒に行きましょう」

二人でコンビニに向かって歩き出す。

「いつになったら先生の連絡先教えてもらえます?」

慧が天気の話でもするみたいにサラっと質問してきた。
凛は慧と気まずさが解消されれば良かっただけで、通常以上に仲良くする必要はないと思っていた。

「・・・・・必要ですかね?何かあればこうして会った時に話したら良いわけですし・・・・」

「必要です。乃木先生や他の先生とはとっくに交換しましたよ。おかげで色々な相談が出来て助かってます」
「相談ですか・・・・・」
「教育に関して、俺はまだまだ未熟ですからね」

あくまでもプライベートで連絡を知りたいわけではないという主張を、上手くかわせる言葉が見つからなかった。
慧がわずかに屈んで凛の顔をじーっと覗き込んでいる。
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