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飛べないあの子
第3章 届きそうな距離
凛は慧を凝視した。
恥ずかしがっているような、でもまだ少しすねているような、微妙な表情だった。

(これは・・・・・・・・ちょっと、かわいいぞ・・・・・・・・)

思わず湧き上がった感情にハッとする。
慧のことを‘かわいい’などと思ったことは一度もなかったから、自分で自分に対して驚いてしまう。

「・・・・・・せめて、普通にして欲しいです。乃木先生と話すみたいに」

慧がうつむきながら言った。凛もうつむいて答える。

「これでも、だいぶ普通になったと思うんですけど・・・・・・」
「なってませんよ。相変わらず表情硬いし。俺と話してても退屈そうにしか見えません」
「・・・・・・顔にあまり出ないだけで退屈なわけでもないんですけどね・・・・・・。でも、気をつけます。乃木先生と話すように話したらいいんですね?」

慧が顔を上げたので、凛も顔を上げた。

「約束ですよ」
「はい。約束します」

慧は照れくさそうな顔をしたまま、じゃあ・・・・・・と頭を下げて去って行った。
これはきっと酒のせいだ。慧も自分も酔ってるせいで、いつもより思考が定まらないだけだ。
頭ではそんなことを考えるが、心の中には先ほど感じた慧をかわいいと思う気持ちが残ったまま、凛は慧の背中を見つめたのだった。
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