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飛べないあの子
第3章 届きそうな距離
それ以降、困ったことに慧のことを可愛いと思う瞬間が増えた。
凛と話したそうに様子を伺っていたり、スーパーで遭遇した時の嬉しそうな顔を見ると、不覚にもかわいいなという感情が湧きあがってくる。その度に胸がざわざわする。
凛の中にあった慧のイメージが固まりすぎていて、それと適合しないと脳がエラーを出しているみたいな感じだった。
慧は凛の気持ちの変化を知ってか知らずか、身体的な距離も詰めるようになってきた。
何かものを渡す時に手が触れたり、ゴミがついていると髪や肩に触れたり、エレベーターでの距離が近かったり・・・・・・。
じわじわとパーソナルスペースに入りこんできている気がする。

「西辻先生・・・・・・手、離してください・・・・・・」

給湯室で慧と遭遇し、カップを取って欲しいと言われたので渡そうとしたら手ごと握られていた。慧は最早さりげなさを装うこともなく、開き直っているようだった。
慧が何の事です?という表情で手を離す。

「・・・・・・西辻先生、そういうの本当にやめた方がいいですよ?私は先生がわざとやってるってわかってますけど、通常は勘違いしますからね?」

慧はコーヒーを注ぎながら微笑んだ。

「中谷先生以外の人にするわけないでしょう?それに、勘違いじゃないので安心してください」
「・・・・・・・・・」

凛はどういう意味なのか、深く考えないようにして心の中で慧の言葉を流した。
凛は慧の後に自分のコーヒーを注ぐ。

「そういえば、さっき皆さんの手に触れて何かしてましたよね。手相でも見てました?」

良く見てるなぁと思いながら首を横に振った。

「違います。芦屋先生が眠いというので、眠気に効くツボを教えてただけです」

ここまで言ってハッとして慧を見る。右手を凛の方に差し出していた。

「俺のも押してください」
「・・・・・・・・・・」

微笑んでいるが、目が笑っていない。
芦屋先生たちと同じように接してくれるんですよね?男性講師の手も触ってましたよね?と目で威圧している。
以前なら面倒くさいと思っていたに違いないが、こういう所もかわいいと思うようになってしまっている自分に呆れる。
凛はカップを置いて、渋々慧の手を取った。
人差し指と親指が交差する、くぼんだ部分を親指でグイと押した。

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