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飛べないあの子
第3章 届きそうな距離
母の上昇志向は昔からだ。自力でエリートになれないのであれば、誰かに便乗してでも社会的地位を上げることを良しとしている。
母自身、ほとんど働くこともなく一部上場企業に勤めた父と結婚したことが何よりの誇りだった。父が亡くなってからは、よりいっそう娘を自分のプライドを保つためのツールにするために必死になっていた。

彼女の基準は全て世間から見られて優れているか劣っているかだ。
レベルの高い大学に行くこと、レベルの高い会社に就職すること、レベルの高い結婚相手を見つけること・・・・・・・。
凛がそれでも大きく歪まずにいられたのは死んだ父のおかげだった。凛が物理好きになったのは理科好きの父の影響が大きい。三姉妹の中で凛だけが理科に興味を持ち、博物館やプラネタリウムなどに良く連れていってくれた。凛は母の基準で言うところの二流の大学にしか合格できなかったが、父が応援してくれたから通うことができた。
本当は大学院まで行きたかったが、大学三年生の時に父が亡くなったので、夢は叶わなかった。母が激しく反対したからだ。
凛の年齢が上がるとともに焦りが酷くなり、ハイスペックな結婚相手をみつけるのに躍起になっている。

(自分の娘のレベルがどれほどだと思ってんのよ・・・・・・・。もっと現実見てほしい・・・・・)

凛は額に手をあててため息をついた。

重い気持ちのまま仕事を終わらせて、重い足取りで駅へ向かう。
ホームで電車を待っている間も母から電話がかかってくる。
凛が忌々しげにスマホを取り出した時だった。

「お疲れさまです」

頭上から声をかけられて見上げると、慧が立っていた。

「西辻先生・・・・・・・。なんで電車・・・・・・・」
「これから、ちょっと待ち合わせで」

スマホがブルブルと震えている。
凛はイライラしてとうとう電源を切った。

「どうしたんです?今日はいつにもまして渋い表情してますね」
「ちょっと面倒なことがあって・・・・・・」

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