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飛べないあの子
第3章 届きそうな距離
二人で電車に乗り込む。
慧は一つだけ空いていた席に凛を座らせて、自分はその前に立った。

「城田って覚えてます?高校の時、俺と良く一緒にいたんですけど」

慧が凛を見下ろしながら聞いた。城田と聞いて、響のことを思い出す。

「・・・・・覚えてますよ」
「今から、城田と飲みに行くんです。あいつ、地元に戻ったんだけど、久しぶりに東京に来たから会おうって連絡があって」
「そうですか・・・・・・・」

慧と一緒の職場であることを、城田を経由して響に伝わってしまうかもしれないと、少し気まずさを覚える。

「今でも仲良いんですね」
「俺が大学辞めてからは、全然連絡取ってなかったんですけどね。珍しく会いたいと言うので」

響のことを話そうか迷ったが、おそらく本人から聞くだろうと思ってやめた。

「今、一緒の職場だってこと、言わない方がいいですか?」

慧が気を使って聞いてくれた。

「あー・・・・・・。どちらでも。でも、多分城田君も私のこと覚えてないと思いますよ」
「・・・・・・・・」

慧は吊革に掴まって少しの間黙って凛を見つめた。

「?」
「・・・・・・なんか、悔しいんですよね」
「何がですか?」
「中谷先生の高校時代の記憶が無いことが」
「はぁ・・・・・・。仕方ないですよ。大人数でしたし、私、目立つタイプではありませんでしたから」
「何かしら接点ありませんでした?」

凛は、記憶を辿ってみる。クラスもクラブ活動も委員会も違ったから、ほんとうに接点がなかったが、一つだけ思い出したことがあった。

「そういえば、文化祭の時ですけど、西辻先生たちのクラスがパンケーキ屋かなんかをやっていて・・・・・・・。終了間際に余っていたパンケーキをさばいてこいって、たまたま通りがかった私と友人が押し付けられたってことがありましたね」
「それは・・・・・・覚えてないですね。そして、押しつけちゃってすみません」
「いえ。多分、私たち仮装してたので目立つと思ったんでしょうね。実際割とすぐ売れて。あ、お金もちゃんと西辻先生に渡しましたよ」

慧が目を瞑って眉をひそめている。思い出そうとして、やっぱり思い出せないらしかった。
凛はクスっと笑った。

「気にしないでください。今は、あれも良い想い出だったなって思いますね」
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