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飛べないあの子
第4章 刻まれるキス
「自分が感じた幸せが絶対になってて、それ以外の幸せに目を向けようとしないのよね。心からそう思ってるのか、目を反らしてるのか知らないけどさ」
「そうなんですよね・・・・・。自分が思う幸せを拒否する私は、もう完全に悪者扱いで・・・・・・」

凛はため息を吐いた。おでんの良い匂いがする。
早く食べたいと思うが、慧が来るまで我慢する。

「浮かない顔をしてるのはお母ちゃんの悩みだったのか。恋の悩みかと思ったんだけどなぁ」
「はあ・・・・・。実はそれも悩み事の一つといいますか・・・・・」

凛のスマホが鳴った。慧からだった。

「もしもし」
「すみません、場所が良くわからなくて」
「あ、今迎えにいきます」

凛は立ち上がって慧を迎えに行った。
上野駅を出たすぐの横断歩道の手前に慧はいた。
すぐに凛に気が付いて手を上げる。

「すみません、こんな遠くまで。西辻先生、実は・・・・・・」
「‘西辻君‘」
「え?」
「敬語が余計に距離を作ってると思うんですよね。俺達、同級生なんだし、せめて二人の時は敬語やめませんか?」
「・・・・・・わかりました。頑張ります・・・・・・・」

凛はコホンと咳払いをした。

「えーと、西辻君。実は、今日飲む場所は屋台なんです・・・・・・。屋台なんだけど」

慧はクスリと笑った。

「屋台?いいね」

慧が笑ったので、凛はホッとした。慧のようなお坊ちゃんが屋台で飲むというイメージがなかったから、嫌な顔をされたらどうしようと思っていた。

「中谷さんの行きつけなの?」
「うん。働き始めた頃からお世話になってて」

二人は上野駅の路地裏へ向かった。
アカネの屋台には相変わらず誰もいなかった。
凛はのれんを上げて慧に座るように促す。

「こんばんはー」

アカネは慧の分の割りばしを狭いテーブル部分に並べているところだった。

「初めまして。お邪魔します」

慧が物珍しそうに屋台をぐるりと見渡した。

「ほえ~。凛先生、またえらい男前連れてきたねえ!」
「西辻です。よろしくお願いします」
「アカネです。どうぞご贔屓にしておくれやすです~。何飲みます?」

アカネに言われて、慧は凛のグラスを確認した。

「中谷さんは、何飲んでるの?」
「私は・・・・・・次は日本酒で」
「じゃあ、同じで」

二人でおでんの具を一緒に選んだ。
日本酒のグラスを手にして乾杯する。
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