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飛べないあの子
第4章 刻まれるキス
「でもどんなに頑張っても真ん中より少し上くらい。物理だけは好きだったから上位にいたけど、全教科の平均だと全然。だから・・・・・・・。西辻君のこと羨ましかった。ずーっと一番で、本当に羨ましかった。結局物理も一度も勝てなかったなぁ・・・・・・」

話ながら、凛はかつての自分を思い出していた。
あの頃、慧に対して抱いていたのは憧れとかいう綺麗なものじゃない。
妬みとか嫉みという、ドス黒いものだった。

(あの頃の私は、やっぱり空を飛びたかったんだよなぁ・・・・・・)

もっと他のことに目を向けたら良かったのにとも思うし、でもその執念のようなものが無かったら、努力することも諦めて、もっとダメな人間になっていたかもしれないとも思う。
凛は慧の目をしっかり見つめて言った。

「西辻くんの頭の良さは、誰でも手に入れられるものじゃないよ。だから誇りに思って。私なんかとは・・・・・・・」

慧が手を伸ばして、凛のほっぺたをムニと摘んだ。

「・・・・・・・・」
「‘私なんか’とか言ったらだめ」
「・・・・・・・・」
「中谷さんだって、すごいよ」
「・・・・・・ほう、かな?」
「うん。自信持って」

慧はなかなかほっぺたから手を離さなかった。
凛は、じーーっと慧を見上げた。
とても優しい眼差しで凛を見ている。
凛は酔いで少し気が大きくなって、慧のほっぺたを同じように摘んでみた。

「・・・・・・・・・」

慧が珍しく眉をよせてイヤそうな顔をした。

(すご・・・・・・。しっとりすべすべ・・・・・・・)

「ちょっとちょっと!何喧嘩してんの!?」

客が帰り、二人の元に戻ってきたアカネが慌てて言った。
二人は同時に噴き出した。

「えー?何よもう~。喧嘩じゃなくて、いちゃいちゃか~。コラ~」

アカネは笑いながらげんこつで二人の頭を叩くふりをした。
凛と慧は子どものように無邪気に笑った。
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