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飛べないあの子
第4章 刻まれるキス
「西辻先生も、今日は来てくれてありがとうございました」
「おでんもお酒も美味しかったです」
「酔っぱらって懐に入ってくる凛先生、可愛かったでしょ?」
「はい。最高に」
「・・・・・・・・・」
「凛先生みたいな子は自分から行かないからね。押さないとだめだよ。焦らず、ゆっくりね」

慧は、クスっと笑うと、凛を見た。

「そうみたいですね。では、お酒の力を借りて」

そう言うと、凛の手を取ってきゅっと握った。

「!!」
「おおー!!いいねいいね!その調子!!」

アカネがヒューヒューと茶化すが、凛は驚きのあまり何も言えなかった。

「ご馳走様でした。アカネさん、また来ます」
「はーい。凛先生をよろしくー」

慧は頭を下げると歩きだした。
凛は何も言えずにアカネを見つめた。
アカネは親指を立てて力強くウィンクした。
なんとか手だけ振って、慧と肩を並べて歩き出す。

「西辻君・・・・・・・」
「アカネさんのお店、良いね。おでんは美味しいし、ナイスアシストしてくれるし」
「ナイスアシストって・・・・・・・」

慧はピタ、と立ち止まると、向きを変えて歩き出した。

「せっかくだから、不忍池行ってみよう」
「え?でも、終電が」
「こんな千載一遇のチャンス、終電なんかで逃すと思う?もう少しだけ一緒にいて。タクシーで家まで送るから」
「・・・・・・・・・・」

二人は上野公園に向かう石段を上っていった。
もうすぐで10月になる。昼間はまだ暑い日もあるが、夜になるとすっかり涼しくなっていた。
上野公園には動物園だけでなく、美術館や博物館が複数あってとても広く、自然も多い。
階段を上りきってお花見の名所として有名なさくら通りを歩く。
両サイドに緑の葉が生い茂った大きな桜の木が延々と続いている。
外灯がところどころ点いているが、大きな桜の木が威圧的に空間を覆っていて、辺りは薄暗い。
ウォーキングをしている人や学生らしき若者が数人歩いているのが見える程度で静かだった。
慧は凛の手をしっかり握って、凛の歩調に合わせて歩いている。

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