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ごっこから何が生まれるのか
第2章 恋人ごっこ。
約束の週末、特別楽しみになんかしていない。
ただ少しいつもよりスーツやネクタイなんかは時間をかけて選んだっていう程度だ。仕事も終わらせフロアを見渡す。
「よし、みんな帰ったな」と、いつもの独り言。
時計を見れば約束の時間まで30分をきっていた。だが待ち合わせ場所までは徒歩10分程度。会社を出る時に1度トイレに行った。用を足すわけではなく鏡を前に少しだけ身なりを整えただけ。
携帯が震える。
液晶に出た文字を読みトイレを後にした。
【今から向かいますね】
普通の恋人どうしだったなら、ここで急いで向かうのではないだろうか。いつもより足取りは軽く、顔面の筋肉を緩ませ、相手の元へ向かうのだろう。
自分はというと、足取りは変わらず、顔面もいつも通り。
つまらない男だろうな。
【分かりました。私も今から向かいます】
歩きながら短く返事をする。
そう、いつも通り何も変わらない。
ただ少し違うのはいつもより時間をかけてスーツとネクタイを選んだっていう事と、いつもは直ぐに会社を出るのに一度トイレに寄り鏡を見たという事だけ。
遠目からでも見つけられた彼は、仕事終わりでロイヤルブルーのスーツが良く似合っていた。眼鏡の端を指先で上げ位置を整えている。
「本当に、かっこいいんだよな」
誰にも聞こえてはいないだろう声を発してみた。